文春オンライン

「一言で言えば“イヤな奴”だった」法廷に立つオウム真理教・井上嘉浩が英雄気取りで評判が悪かったワケ

『私が見た21の死刑判決』より#19

2021/01/02

source : 文春新書

genre : ニュース, 社会, 読書

note

28歳と40歳の差

 どうして、同じ事件の証言なのにそんなに食い違うことがあるのか。

 林泰男の法廷に出廷した井上は、裁判長から直接尋ねられて、こう答えている。

「林さんも、いま、辛い時、苦しい立場におられるから、こうあって欲しいと思うところがあるのでは。ぼくも逮捕されて1年は、精神的に不安定だった。解脱、悟りを求めて教団に入ったのに、なんでや、なんでこうなるんや、と思う気持ちがあった。それが実行犯だったら、もっと辛い。だからどうしても他人に押し付けたい。林泰男さんを恨みはしてませんが、そういう辛い気持ちはわかる。伝わる。ぼくもそうだったし、いまも辛いです」

ADVERTISEMENT

 それと同じことを、今度は井上の法廷に出廷した林泰男が、裁判長から訊かれている。責任を押し付けているというのは、井上被告のほうなのか、どうか。

©iStock.com

 その時、林泰男はちょっと考えてから、こう答えている。

「うーん……そうですね。ただ、井上君が意図的というのではないんです。人の記憶ですから、ある程度それは仕方ないと思います」

 それは、自分が可愛いから自分に有利に話しているということか、と裁判長が念を押す。

「そういう面は、それぞれにあると思います」

 この時の井上の年齢は28歳。林泰男は40歳。その差ばかりが、こうした発言を呼んだとは、ぼくには思えなかった。

私が見た21の死刑判決 (文春新書)

青沼 陽一郎

文藝春秋

2009年7月20日 発売

「一言で言えば“イヤな奴”だった」法廷に立つオウム真理教・井上嘉浩が英雄気取りで評判が悪かったワケ

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春新書をフォロー