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28歳と40歳の差
どうして、同じ事件の証言なのにそんなに食い違うことがあるのか。
林泰男の法廷に出廷した井上は、裁判長から直接尋ねられて、こう答えている。
「林さんも、いま、辛い時、苦しい立場におられるから、こうあって欲しいと思うところがあるのでは。ぼくも逮捕されて1年は、精神的に不安定だった。解脱、悟りを求めて教団に入ったのに、なんでや、なんでこうなるんや、と思う気持ちがあった。それが実行犯だったら、もっと辛い。だからどうしても他人に押し付けたい。林泰男さんを恨みはしてませんが、そういう辛い気持ちはわかる。伝わる。ぼくもそうだったし、いまも辛いです」
それと同じことを、今度は井上の法廷に出廷した林泰男が、裁判長から訊かれている。責任を押し付けているというのは、井上被告のほうなのか、どうか。
その時、林泰男はちょっと考えてから、こう答えている。
「うーん……そうですね。ただ、井上君が意図的というのではないんです。人の記憶ですから、ある程度それは仕方ないと思います」
それは、自分が可愛いから自分に有利に話しているということか、と裁判長が念を押す。
「そういう面は、それぞれにあると思います」
この時の井上の年齢は28歳。林泰男は40歳。その差ばかりが、こうした発言を呼んだとは、ぼくには思えなかった。