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明らかになる供述の矛盾

 そうしたことは、彼の捜査中の供述調書の変遷にも見てとれた。彼は、取り調べの最初のうちは、嘘を付いていた。それが、次第に本当のことを語って録取されるようになったが、それでも自分の関与を差し控えたり、誤魔化したり、誰かのせいにしていたのだ。それを証拠開示で知っているだけに、麻原をはじめとする共犯者の弁護人たちには、評判が悪かったのだ。

 そして、逃走していた林泰男が捕まって、裁きの場に出てくるようになると、事件の指示系統や内容に矛盾が生じるようになった。簡単にいえば、それまで林泰男が現場を束ねて具体的にこんなことを言った、こう考えてあんな指示を出した、と井上が主張していたものが、遅ればせながら登場した林泰男の証言によれば、それは井上本人が言ったものであることになるのだった。

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 その一例をあげれば、送迎役の人選。車を用意して、実行犯を駅まで送り、ピックアップする。そのシステムを考え、人選をしていたのが林泰男だったと井上は主張する。ところが、林によれば具体的に3人の運転手候補の名前をあげて進言したのは井上だったということになる。都内のアジトへの集結、移動も井上の直接指示だったという林に対し、井上は林から相談を持ちかけられたからアジトとなる場所を提供したとする。そんなことが、次から次へと噴出したのだ。

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「林泰男が逃走中で裏付けがとれないことをいいことに、嘘をついて自分の罪を押し付け、林泰男に不利な供述をしたのではないのか」

 林泰男の弁護人からは、そんな指摘まで井上に飛んでいた。

 いずれにしても、真実がひとつであるのなら、ふたりのうちのどちらかが嘘をついていることになる。