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 最後に一番奇妙な「忘れ物」を挙げておこう。

「10年以上前の話ですが、水漏れがあり天井板をはずしたところ、結婚式のご祝儀袋が複数出てきました。中身はそれぞれ3万円くらい入っていて、名前も書いてありましたが、いつのお客様のものなのかもわかりません。変なところにあったので、隠していたとしか思えないんですが……」(富山県宇奈月温泉延対寺荘の女将・延対寺晶子さん)

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「双方の心が通う」おもてなしを

 どのようなお客に対してもおもてなしをしなければならない女将たち。

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 長坂さんがこう話してくれた。

「私達は旅館文化、日本文化を大切に継承していく担い手であることを意識しながら旅館を経営しています。古き良き日本人としての誇りや気質を大切に後世に伝えていく責任を感じています。

 本当の意味での裕福とは何か、心のゆとりとは何か、コロナ禍であらためて考えさせられます。お客様とは、どちらかの一方ではなく、双方の心が通うおもてなしができればと思っております」

 長坂さんに、「よいお客とは」と訊ねると、「お客様から『ありがとう』『楽しかった』と一言添えて頂けたら、私達は疲れが吹っ飛びます」。

 このコロナ禍によって、温泉旅館は苦難の時が続いている。私たちを癒してくれる温泉旅館に決して迷惑はかけたくないものだ。

女将は見た 温泉旅館の表と裏 (文春文庫)

まゆみ, 山崎

文藝春秋

2020年12月8日 発売