キャンバスと、絵の具。それに、布を支えるための木枠を少々。
アーティスト小林正人さんが創作に用いる材料はそれだけだ。彼が絵を描く人なのは、どうやら間違いのないところ。
それなのに、だ。小林作品を目の当たりにすると、
「これはほんとに絵画なのか?」
と不安になってしまう。わたしたちがふつうに頭に思い浮かべる「絵」なるものと、それは大きくかけ離れているから。
ひしゃげていたり三角形だったりと、形態が自由
小林作品はまず、四角形じゃないことがしばしばだ。絵というのはタテ長・ヨコ長の別はあれど、たいていきっちり四隅のある方形だと思うのだけど……。小林さんはそこにこだわりを持たない。ひしゃげていたり、辺の長さがバラバラの三角形だったりと、形態がまったくの自由である。
木枠から外れていたり、床置きにされたり
また、通常の絵画作品は木枠にキャンバスがピンと張られ、その上に図像が描かれる。だが小林作品の場合、キャンバスが木枠から外れてしまっていることも多い。角が出るよう頑丈に作るはずの木枠も、「何が悪い?」とばかりに歪んでいたりする。
さらには絵といえば壁に掛かっているのが通常だろうに、小林さんにかかれば作品は平気で床に直置きされてしまう。キャンバスが床を這って観る側のほうまで延びてきて、そこに絵の具チューブや布切れがのっていることも。誰かが誤って踏んだりしないかとヒヤヒヤする。
「いや、そんなこと気にする必要はないんだよ。それよりさ、そもそもどこからどこまでが絵なのか? って話なんだよ」
と小林正人さんは言う。
自分の絵は、キャンバスの枠内におとなしく収まっているようなものじゃない、というのだ。
「ほら、ここに一枚の絵があるだろう? そうして当然ながらその周りには、現実の世界が広がっている。何も考えずに絵をただ壁に掛けるだけなら、作品と周りの世界は別個のものとしてあるままだ。
でも、俺の絵は違う。時空を超えて広がっていこうとするんだ。それは俺が、ただ『絵をこの壁に掛けよう』としているんじゃなくて、『この星』に絵を設置するぞ! っていうつもりで掛けたり置いたりしてるからなんだよ。