電源構成をどうするか
国谷 政府は、安定的なエネルギー供給のためには原子力が必要としています。しかし、3・11の原発事故の経験があり、また原子力は、いまや最もコストが高い電力です。再生可能エネルギーの進展に比べると将来性の乏しい電力になりつつあるのではないでしょうか。
小林 そうですね。トリウムを燃料に使った、比較的安全とされる新しい原子炉まで考えれば、まだ先があるけれど、既存の原発技術は、あと20~30年で終わりでしょうね。
ただ、2050年目標を考えると、少なくとも再生可能エネルギーが基幹電源となるまでは、原発は活用せざるを得ないエネルギーだと思います。東日本大震災以前のように総発電量の2割以上を占めるのは難しいかもしれませんが、現状の6%はいかにも少ない。
川村 エネルギー密度でいえば、原子力ほど高いものはないんです。原子核の中にエネルギーが凝縮して詰めこまれている。これはやっぱり将来も使わざるをえないなと私は思っています。燃料となるウランも世界中に十分な量が埋蔵されており、将来的にも問題はありません。
国谷 とは言っても原発には、世界的にも厳しい目が向けられています。EUが検討している持続可能な経済活動の分類基準である「EUタクソノミー規則」では、放射性廃棄物が環境に悪影響を及ぼすとして、原発を持続可能でグリーンな産業には含めないとの議論をしています。やはり放射性廃棄物の問題は大きい。
小林 もちろん、原子力規制委員会による徹底した安全対策は大前提ですし、あらゆるコストを精緻に計算する必要はあると思います。ただ、日本に残っている33基の原子炉が使えるのは、せいぜいあと20、30年。これまで何兆円もかけてきて、技術の蓄積もある社会システムです。これをサドンデスで畳んでしまうのか、CO2削減のために当座活用するのか。
川村 今は使い道のない「座礁資産」になっているわけですけれど、このままいくつもの原発を座礁資産のままで置いておくのは資源小国日本のとるべき道ではない。EUのように、送電線で密に連携し、フランスのような原子力大国を残したうえで、化石燃料の火力を減らした分を再エネや水素で補うという多面策を日本も参考にすべきです。
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「文藝春秋」1月号及び「文藝春秋 電子版」に掲載した座談会「『温室ガスゼロ』は実現できるか」では、今後の電力業界のあり方に加えて、太陽電池や炭素繊維など温室効果ガスゼロに向けた新技術のほか、炭素税の是非などについても3氏が語り尽している。
「温室効果ガスゼロ」は実現できるか