「文藝春秋」2月号の特選記事を公開します。(初公開 2020年1月26日)
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2019年10月現在、1日3000人から4000人が作業員として働く福島第一原子力発電所。構内の入り口近くにある入退域管理施設から眺めてみると、4つ並んだ原子力発電所はそれぞれ佇まいが違っているのがわかる。
1号機は天板もなく、四方の鉄骨だけがむき出しになっており、2号機は上部に「燃料取り出し用構台」というプレハブ小屋のようなものが設置されている。3号機には天板の上に円筒状のドーム屋根が作られ、4号機には真横から建屋を支えるような鉄骨構造物が建てられている。
防護服が必要ないエリアは96%に
だが、震災の頃の風景と比べてなにより違うのは、構内を歩く作業員の姿だろう。原発建屋の近くでも防護服を来ている人はおらず、一般の作業服姿で作業に従事している。
「一部のエリアではカバーオール(防護服)が必要ですが、いまは構内の96%のエリアが一般の作業服で作業ができるようになりました」
東京電力の担当者がそう解説する。
敷地内の建屋に近いエリアを見ると、地面の至るところがコンクリートのようなもので覆われている。放射性物質の飛散を防ぐため、地面を広く遮蔽していたのだ。
そこまで環境整備が進んだことで、廃炉の作業も進みやすくなっている。
「今後の廃炉の作業工程で、一番の課題は燃料デブリ(破片)の取り出し。これをどのように進めるかは技術的にも難しいところになると思います」
700グラムの燃料デブリを持ち上げた
その第一歩となる作業が、2019年2月に行われた。
2号機の格納容器に穴を空け、ロボットアームのような機械を炉内に送り込み、床面に堆積する燃料デブリをいくつか持ち上げる。その調査に成功したのである。
持ち上げた燃料デブリは最大で約700グラム。わずかなものだが、実際に持ち上げたスタッフたちにとっては、それ以上の重さを感じる実験だった。
行っていたのは、2号機の開発元である東芝のチームだった。