昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

「100円だけでも貸してくれませんか」特急電車に飛び込み心中 87歳母と52歳娘はなぜ困窮に陥ったのか

2021/01/09

genre : ニュース, 社会

 小田急小田原線の玉川学園前駅(東京都町田市)で2020年11月28日深夜、神奈川県座間市に住む母親(87)と、同居する娘(52)が、ともに特急列車に飛び込み、亡くなった。母娘は事故の数カ月前から、近隣住民に金銭を借りて回り、トラブルになっていたという。週末の深夜、誰にも救いの手を差し伸べられることもなく、心中の道へと突き進んだ母娘。何が2人を追い詰めたのか。

母と娘が飛び込んだ小田急小田原線の玉川学園前駅 Ⓒ文藝春秋

何度も飛び込もうとしてはためらう映像

 事故が起きたのは午後11時10分ごろ。亡くなったのは、神奈川県座間市に住む無職、佐々木洋子さん(87)と、同居する娘で職業不詳、泰子さん(52)。防犯カメラ画像には、母娘が横並びで同駅2番線ホーム中央付近から線路に飛び降りる様子が写っていた。その直後、スピードを保ったまま駅に入ってきた特急ロマンスカー「はこね72号」新宿行きの通過列車にはねられ、死亡した。

 2人は事故の約1時間前に同駅に到着。駅ホーム上を往復し、何度も飛び込もうとしては、ためらう様子が記録されていた。同駅にホームドアは設置されておらず、2人は意を決したかのように、列車の通過に合わせて、小走りで線路に身を投げたという。

Ⓒ文藝春秋

 その間、同駅には約10分おきに電車が停車していた。駅員や電車から降りる人、乗り込む人たちがいながらも、手を差し伸べられることなく、寒空のもと約1時間、電車を見送りながら逡巡した後に心中した母娘。特急列車に衝突した遺体の損傷は激しく、身元が特定できたのは事故から4日後のことだった。駅のホームに残されていたバッグ内に遺書はなく、電話番号が書かれたメモ書きが残っていただけだった。

母娘はお金に困っていた

 ある捜査関係者は「自宅にも遺書はなかった。なぜこの駅で2人が自殺したのか、はっきりとした動機はわからない。だが、親族の話によると、2人は数年前からお金に困っていたようだ。親族は別の場所で暮らしており、疎遠気味だったと思われる」という。

 事故現場の同駅から3駅先の小田急相模原駅(神奈川県相模原市南区)。同駅から歩いて約15分ほどの閑静な住宅街にある築約30年の古びた3階建てマンションの1階で、母娘は2人で暮らしていた。

母と娘が暮らしたマンション Ⓒ文藝春秋

 近隣住民らによると、母娘は数年前にマンションに2人で越してきた。母親は小太りで小柄。80歳代に見えないほど元気で明るく、柔和で愛想がよかった。リュックを背負って買い物に行くなど、活発だった。それに比べて娘は暗い印象で、1人でよくどこかへと出掛けていた。近所付き合いは少なかったが、時折一緒に歩いている姿は、ごく普通の仲の良さそうな母娘だったという。