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 ツッコミの村上は1984年愛知県生まれ。芸歴は14年、同期に渡辺直美、ジャングルポケットなどがいる。野田という破天荒で攻撃的なイメージとは真逆で、ピンクのカーディガンとネクタイに身を包み「人畜無害」という言葉がにあう。野田をいなす姿は、まさにサーカスの猛獣使いそのもの。小太りでファンシーなフォルムだが、身長181cm、体重100kgと巨漢である。

 村上のスタイルは、近年ツッコミ芸人のなかでよく見られる言葉遊び的な言い回しでなく、ストレートな言葉ばかり。視聴者に「俺にもできそう」と思わせる、いわゆる「普通のツッコミ」をくりだす猛獣使いぶりは、爆笑問題の太田光をあしらう田中裕二を彷彿とさせる。ちなみに「村上」は芸名であり、本名は「鈴木」という。

上沼恵美子とマヂカルラブリーの“因縁”

 マヂカルラブリーが時代の寵児になれたのは、端的に行ってしまえば審査員である上沼恵美子との“因縁”が大きかったように思う。それこそが、彼らの優勝に花を添えた要因ではないだろうか。

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 4年前の2017年、マヂカルラブリーはM-1の決勝に初登場。漫才を披露した後、上沼は「よく決勝に残ったな、という感じ」と酷評、83点という低評価を付けた。結局、同年のM-1決勝は最下位という散々な結果となった。

上沼恵美子 ©️文藝春秋

 それから3年。「上沼を笑わせたい」というリベンジに燃える野田の意気込みは、漫才ファンの間でも話題になっていた。決勝戦がテレビでオンエアされると、ファンはマヂカルラブリーが漫才を披露する姿を、固唾をのんで見守った。

「バカバカしさを突き抜けて芸術」という賛辞

 結果、見事に大爆笑をかっさらい、第1ラウンドでは上沼が94点という高得点をつけ、「バカバカしさを突き抜けて芸術」と絶賛した。割れんばかりの拍手の中、野田の感極まった表情が印象的だった。

 マヂカルラブリーにとっての上沼のような、長年の宿敵を倒すという“勧善懲悪”的ストーリー展開は、日本人が古来より愛するものである。

 そういえば、2020年は奇しくもそんな“勧善懲悪ストーリー”がヒットしていた。

 シーズン2が大ヒットしたTBSドラマ『半沢直樹』では、主人公の半沢が宿敵の大和田とも手を組みながら、ラスボスの箕部啓治幹事長を倒す。同じく昨年来の大ヒット作『鬼滅の刃』も、主人公が仲間と努力を重ね、家族を殺された因縁を持つ宿敵の鬼舞辻無惨を倒す物語である。

堺雅人(右)と原作者の池井戸潤氏 ©️文藝春秋

『半沢』や『鬼滅』と同じように、“宿敵”上沼恵美子を、3年越しに打ち負かしたマヂカルラブリー。彼らの「倍返し」は、日本国民をスカッとさせた。それが、作られた物語ではなく、生放送で起きたことが、より何倍も感動を誘うものだった。

 だからこそ、ファンたちはそのスタイルに侃々諤々言いながらも、彼らを好意的に受け入れているのではないだろうか。