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「主人公が敵を倒す」という爽快感

 そもそも振り返ってみれば、昨年1年間を通じてこういったシンプルな勧善懲悪ストーリーがウケた根底には、新型コロナウィルスの感染拡大が大いに関係していると思う。

 昨年1年、日本人はもちろん世界中の人々が外出自粛を余儀なくされた。旅行にも行けず、年末なのに忘年会をするにも責められる。いつコロナに罹患するかもわからず、閉塞感が大きな1年間だった。だからこそ、「悪役側にも事情がある…」みたいなセンチメンタルな話ではなく、シンプルに「主人公が敵を倒す」という爽快感を国民が求めていたのではないだろうか。

『鬼滅の刃』映画予告編より

 そんな暗い世の中で、お茶の間に映し出されたマヂカルラブリーの姿――。

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 漫才が始まるやいなや、センターマイクを離れて、猛牛のようにあちこち暴れまわる野田クリスタル。そしてそのネタは、よくも悪くも上沼恵美子という“鬼”に敗れた3年前から格段にブラッシュアップされていた。研ぎ続けたネタの刃で、ようやくM-1の無惨様を退治したのである。

ラスボスを笑いの刃でバッサリと

 これは視聴者にたまったストレスを代わりに発散してくれていたのではあるまいか。ストーリーの内容は異次元的な世界観で、何も考えずに大笑いできる。そして、特有の漫才ともつかないスタイルで、かつて敗れた宿敵を倒す――。そんなストーリーに、コロナ禍で疲れ切った国民の脳はスッと癒されたに違いない。コロナ禍の生活に神経が押しつぶされている人々は、自分の姿を野田に重ねて、「俺も、これくらいバカになりたいんだ!」と疑似的に溜飲を下げたのだろう。

©️時事通信社

 マヂカルラブリーが支持されたのは、コロナ禍という社会情勢に根差した勧善懲悪の隆盛と、上沼恵美子との因縁が重なったことでの化学反応だったのだ。

 2021年、コロナ禍はまだまだ先を見通せない苦境が続いている。そんな中で、マヂカルラブリーはどんな笑いを私たちに届けてくれるのだろうか?

マヂカルラブリー優勝決定の瞬間 ©M-1グランプリ事務局