都庁はこの状況を1カ月前から分かっていたはず
田中 都庁は1カ月前から分かっていたようです。東京都の新型コロナウイルス感染症モニタリング会議が「年末年始に日々の新規感染者数が1000人を超える。重症者は2倍になる」という情報を、都知事サイドに示していたはずです。感染者がじわじわ増えるのではなく、いきなり突き抜けるようにして増えるという予測です。その情報については、私も間接的に耳にしました。
――都民には知らされませんでした。
田中 小池百合子知事が熱心だったのは、政府との水面下の駆け引きでした。隣接3県の知事を抱き込んで国と対峙するとか、そのようなことばかりやっているようにしか見えませんでした。
――結局、感染拡大は「予測」通りになりました。
「命の選別」を現場に押し付けていいのか
田中 その結果、指定病院から重症者があふれ出しています。平時には、どんな患者にも全力を挙げるのが「医の倫理」でしょう。ところが、それができなくなってしまったらどうするか。
人工呼吸器やエクモといった医療資源、これを扱う医療従事者には限りがあります。患者がどっと押し寄せると足りなくなる。その場合には、治癒が期待できる人を優先すべきだ、というのがトリアージの考え方です。「命の選別」に当たるとして反対する人もいます。しかし、きれいごとでは済まない現実が目前に迫っています。戦場や災害現場と同じ状況に陥りつつあるのです。
そうした時に「この人から人工呼吸器を外して、あの人に付けないといけない」という判断を現場の医者に押しつけていいのか。そんなことを強いていては、医者が精神的に参ってしまい、医療崩壊の前に「医療人材の崩壊」が起きてしまいます。
――そもそも、感染症対策は都道府県知事が中心になって行うことになっています。
田中 しかも、都内で最も重要な指定病院は「都立」です。都立病院の責任者は都知事なのだから、組織のトップとしても責任を果たすべきなのです。「命の選別」の責任は、現場の医者ではなく、都知事として背負わなければなりません。その危機意識が感じられないのが残念です。