1月6日の午後、ニュースに映るアメリカ合衆国議会議事堂の映像に誰もが息を呑んだ。何百人もの暴徒が星条旗や「TRUMP」と染め抜かれた旗を振りながら議事堂に突進し、警官隊と激しく衝突していたのだ。 

 暴徒は警官とつかみ合い、殴り合った。催涙スプレーを吹きかけられる者もいた。しかし自宅や職場から映像を見る黒人市民の多くは、暴徒が警官に射殺されることはないと知っていた。暴徒の圧倒的多数が白人だったからだ。同時に、これがもし黒人なら瞬く間に一斉射撃になっているだろうとも考えた。 

警官とトランプ支持者らの揉み合いの様子 ©AFLO  

 やがて暴徒は米国民主主義の象徴である議事堂の内部になだれ込んだ。 

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 昨年、全米各地の路上で行われたBLMデモには大量の警官隊が出動したが、議事堂での暴動になぜこれほど少数の警官しか出動しなかったのか。BLMに対して多用されたゴム弾の使用もなかった上、フル装備の兵士が駆け付けたのは2時間以上経ってのことだった。 

 アメリカの人種ダブルスタンダードが、はっきりと映し出された瞬間だった。本稿では今回の暴動の人種にまつわる部分を考察するが、その前に事件の概要を記す。 

1月6日に支持者らを煽ったトランプの演説 

11月3日の大統領選から2ヶ月あまり。ドナルド・トランプは敗北を認めず、選挙が不正なものであったと証明するためにあらゆる手を尽くしていた。しかし、そのどれもが功をなさず、1月20日の第46代大統領ジョー・バイデンの就任式が刻々と迫っていた。

 この日、議事堂では上下両院合同会議による選挙人獲得数の集計が行われていた。これによってバイデンが大統領に認定される。 

 合同会議は午後1時から始まったが、暴徒はその直後に議事堂前に到着していた。この日の午前中、議事堂の近くで「アメリカを救う」と冠された集会が開かれており、数千人のトランプ支持者が集まっていたのだ。集会ではトランプの個人弁護士として、大統領選が不正であったとする訴訟を担当したルディ・ジュリアーニ弁護士(元ニューヨーク市長)やトランプの長男ドンJr.、トランプ自身が演説を行った。 

 1時間以上に及ぶ演説で、トランプは不正な投票があった、我々は勝った、負けを認めないを繰り返した。満場の支持者たちは「ウィ・ラヴ・トランプ!」「ファイト・フォー・トランプ!」と気炎を上げた。 

1月6日の集会で演説するドナルド・トランプ大統領 ©AFLO  

 トランプは演説を以下のように締め括っている。 

「我々は(議事堂へと続く)ペンシルヴァニア大通りを歩こう」「議事堂に行こう」「弱い共和党議員を助けよう」 

 支持者たちはトランプの言葉通り議事堂に向かったが、トランプは同行しなかった。会場付近に設置したテントの中で、ドンJr.や娘のイヴァンカと共に、飲み物を片手に暴動の中継を眺めていたのである。