「お前の船はもう出港したのだから、元には戻れない」
これは、俳優の故・緒形拳さんが息子・直人さんへ語った言葉だ。緒形直人さんは、映画デビュー作『優駿 ORACIÓN』の撮影が終わった時点では、映画スタッフになりたいと思っていたという。しかし、同作は高く評価され、数々の賞を獲った。
「父親はあまり細かいことを言う人ではありませんでした。だけど、僕とは違い俯瞰で物事を見ることができる。父のアドバイスにより俳優としての一歩を踏み出すことができました」
人にかけられた言葉が、長ずるにつれ心に染みていく経験は誰しも持っているのではないだろうか。
映画『望郷』で、緒形さんは、大東駿介さんが演じる主人公の亡父を演じた。原作は湊かなえの短編小説で、舞台は因島。主人公は若くしてガンで亡くなった父との関係にわだかまりがある。父と同じく教師になった息子は父と同じようにいじめ問題に対峙する中で、父の遺したある言葉を思い出すのだ。
緒形さんは、主人公の父の人物像を「生徒に人気の明るい先生ではなかった。病魔に冒され限られた時間の中で、命を削りながら、一人の子どもを救いたいと思ったのではないか」と、解釈して演じた。
因島での船の進水式のシーンは物語の大きな鍵となる。船も人間も生まれてきたときに大きな祝福を受けることを進水式は教えてくれる。人生は大きな海を船でいくことに似ている。
映画『望郷』
新宿武蔵野館ほか全国順次公開中
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