新年を迎えて間もない1月4日午後7時頃、いたましい事故は起きた。
場所は東京・渋谷区の笹塚駅近く。1人の女性を乗せて甲州街道を走っていたタクシーが、横断歩道を渡っていた歩行者らを次々にはね飛ばした。事故を起こしたタクシーは被害者の1人をボンネットに乗せたままおよそ200メートル走り続け、はねられた49歳の女性が死亡。9歳の小学生男児を含む5人が重軽傷を負う大惨劇となった。
意識が朦朧として蛇行や加減速
タクシーのフロントガラスは大きくひび割れ、ボンネットも衝撃で大破。事故現場となった横断歩道には、歩行者のものとみられる脱げた靴や血痕などが残されていた。ハンドルを握っていたのは都内在住の73歳男性で、タクシードライバー歴30年を超えるベテラン運転手だった。
「警察がタクシー会社から押収したドライブレコーダーには、事故の数分前から運転手の男性の意識が朦朧としている様子が映っていて、蛇行や加減速を繰り返していた。運転手は身体を揺らしたり前にうつむくような状態で、乗客の女性が声を掛けても返事がなかった。運転手は事故直後に車外で嘔吐していて、警察では運転中にくも膜下出血を起こしていた疑いがあるとみている」(捜査関係者)
会社にクレーム殺到、仕事が怖くなる人も
乗客の命を預かる運転のプロが引き起こした今回の事故。同じタクシー会社に勤務する同僚が、事故前の当日の様子について語る。
「事故を起こした日の朝礼では、特に目立つところはありませんでした。小さなタクシー会社で、ドライバーの3分の1は70歳を超えている。運転手には年2回の健康診断が義務づけられていて、体調に問題があればもちろん仕事はできない。なので、突然の事態だったのだと思う。年も年なので最近は週2~3回の勤務だったが、コロナの影響でお客さんが減り、全体的に売り上げは落ちていた。事故の後から会社にはクレームが殺到していて、多くのドライバーがハンドルを握るのが怖くなり、辞めることを考えている人もいます」
事故を起こした運転手は、「自宅のローン返済に追われていた」という。