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「回復の見込みはほぼないと言われています」

 事故から数日後、東京から遠く離れたタクシー運転手の自宅を訪ねた。病気の兆候はなかったのかと聞くと、息子が神妙な面持ちで「申し訳ないです。謝っても謝りきれません」と、何度も繰り返した。

「申し訳ないで済まないのは、わかっています。謝って済む問題ではないのもわかっています。亡くなられた方やケガをされた方に申し訳ないという気持ちしか私たちにはないです。父親の代わりにすみませんでしたとしか、それしか言えません。本当に申し訳ないです。謝っても謝り切れないです……。

 病気の兆候はありませんでした。事故前にくも膜下出血が起きて意識がなくなったというのが病院の先生の見解で、それ以上は私たちもわからないです。事故後に病院へ行きましたが、まだ意識も戻っておらず、本人は何も考えられる状態ではないです。病院の先生からは、回復の見込みはほぼないと言われています。年齢的にも、どんなにうまくいっても植物状態を免れるのが精一杯ではないかという見立てです。今は集中治療室に入っています。

 本人はもしかしたら具合が悪かったり症状があったのかもしれませんが、私たちは何も聞かされていませんでした。傍目にもずっと元気にしていたので……。事故の被害者の方々らに今すぐに謝りに行けるのなら、すぐにでも行きたいんですが、どうしていいかがわからない。本当にこれからどうしていけばいいのか」

男性が勤務していたタクシー会社 Ⓒ文藝春秋

 73歳という年齢は確かに若くはないが、タクシードライバーを含めてまだ多くの人が働いている年齢でもある。ローンを抱え生活のために働く必要があったとすればなおさらだ。健康診断も受けていた運転手男性に、この惨事を回避する方法はあったのか。まずは運転手の容体が回復して、事故の詳細が明らかになるのを待つしかない。

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