さて、ビデオメッセージでは天皇と皇后のあいさつの後、天皇は2020年7月豪雨の被害に触れ、そして新型コロナウイルスの問題に言及していく。医師・看護師をはじめとする医療に携わる人々への敬意と感謝の言葉、「感染拡大の影響を受けて、仕事や住まいを失うなど困窮し、あるいは、孤独に陥るなど、様々な理由により困難な状況に置かれている人々」などへの言及である。こうした「おことば」の構成は、実は平成のあり方にかなり類似している。
東日本大震災などについて言及した平成の天皇や皇后は、必ず、被災者の身を心配するとともに、彼らに寄り添うボランティアの存在に言及し、その重要性を説いていた。被害にあった人々への見舞のことばとともに、そうした被災者を支える人々の存在を、世に知らせることを意識していた。今回のビデオメッセージでも、感染した人々やその家族への見舞のことばとともに、「困難に直面している人々に寄り添い、支えようと活動されている方々」に対して私たちが注目すべきことを示唆しているようにも感じられる。その意味で、今回の天皇の「おことば」は、平成流からの継続とも言えるものであった。
雅子さまが「人々に直接語りかけられる肉声」を聞く機会に
最初を除いて新型コロナウイルスの問題に集中した天皇とは異なり、皇后は直接的にはその問題には触れない「おことば」を述べている。皇后の声が画面上で聞けたのは、昨年11月8日の立皇嗣の礼における朝見の儀の時以来であるが、それも「お健やかにお務めを果たされますように」というごく短いあいさつであり、今回のように人々に直接語りかけるのは、2002年12月5日に行われた誕生日、ニュージーランド・オーストラリア訪問に際しての会見以来だと思われる。その後、病気となって会見する機会が無くなり、その声を私たちが直接的に聞くことはなかった。その意味でも、今回のビデオメッセージは皇后の肉声を聞く機会となり、驚きであった。
皇后は「この1年、多くの方が本当に大変な思いをされてきたことと思います」とまず述べ、新型コロナウイルスには直接的には言及しないものの、天皇の「おことば」を受けた形で話を始める。そして、「この冬は、早くから各地で厳しい寒さや大雪に見舞われています」と言及し、天候で大変な思いをしている人々の存在にも触れて話を終えている。皇后の「おことば」によって、この新年ビデオメッセージは新型コロナウイルスの問題に終始しないような構成となり、今現在、困難な状況にいる人々に対して天皇と皇后が見舞の気持ちを述べ、ともに励ますような意味合いを持つこととなった。