雅子さまが話される時、天皇陛下の口までもがかすかに…
今回のビデオメッセージの皇后の部分で興味深いのは、皇后が話している時、天皇の口までもがかすかに動いていることである。明らかに天皇は、画面の向こう側にあるプロンプターに映し出されている文章を一緒に読んでいる。
それは、病気療養中の皇后を支える天皇の姿とも言えるだろうか。先に述べた、天皇を支える皇后という平成のあり方とは異なり、天皇が皇后とともにある、もしくは天皇が皇后を支える姿である。私たちは、これまで病気療養で苦しんできた皇后の物語をよく知っている。そして、その皇后が人々のために出て、励ましている姿を目の当たりにしているのである。
雅子さまが「つらい」という内面を吐露された「ご感想」
皇后が今回、このようにビデオメッセージの場に出、自ら「おことば」を発したのは、新型コロナウイルスが流行していることで苦しんでいる人々に対して、強い思いがあったからではないか。昨年12月9日、「皇后陛下お誕生日に際してのご感想」として発表された文章は、皇太子妃時代にもないほどの4000字を超える長文で、「世界の各地で、あるいは日本国内で、多くの方がこの感染症に苦しみ、懸命の治療にもかかわらず亡くなっていく現実は、本当につらいものです」と述べ、「つらい」という内面を吐露している。自らも病気で苦しんできたことが重ね合わされたのではないだろうか。
しかし、「同時に、現在のこの状況の中で自分たちに何ができるかを考え、行動しようとする、若い人たちも含む多くの方の新しい試みや取組を目にするとき、勇気付けられ、心温まるとともに、人と人との絆の大切さを強く感じます」と強調し、その中での希望の光を見出してもいる。
昨年1月、令和初めての歌会始で、「災ひより立ち上がらむとする人に若きらの力希望もたらす」との皇后の歌が詠まれた。これは、災害から復興に向けて立ち上がろうとする人々の様子を歌ったものである。新型コロナウイルスの状況のなかからも、皇后は希望を見出そうとしているのではないだろうか。そこに、新しい令和の皇后像が見えてくる。