最低限の「厳しさ」を忘れてはいけない
拙著『いつも、気づけば神宮に 東京ヤクルトスワローズ「9つの系譜」』(集英社)において、僕は「ヤクルトらしさとは何か?」をテーマに取材を続けた。すでに多くの人に指摘されているように、ヤクルトには長年の「ファミリー体質」が存在する。それはメリットも多いのだけれど、どうしても「甘さ」「緩さ」を生み出すというデメリットもある。この点について、「ミスター厳格」宮本さんに質問をする。
――ヤクルトの魅力である「ファミリー体質」はどうしても「緩さ」を生み出しがちですが、「緩さと厳しさ」のバランスはどうしたらいいと思いますか?
「確かに、ヤクルトのチームカラーは《ファミリー》と言われるだけあって、明るく溶け込みやすいんですけど、間違いなく《緩さ》もありますよね。でも、強いときというのは《緩さと厳しさ》のバランスがとれていて、メリハリがありました。それが一番大変だったのが、08年でした。あのときは誰にも相談できずに辛い時期でしたね。そういう意味では、野球観が近い相川(亮二)が、09年にヤクルトにFA移籍してくれたのは、僕にとっては非常に大きかったですね」
――ゆとり世代ではないけれど、これからの若手選手との接し方というのは、また新たなアプローチが必要になるかもしれないですね。
「そうですね。時代によって、考え方が変わっていくのは当然でしょうね。でも、大先輩方が築き上げてきたものは取っ払ってしまってはいけないと思うんです。“昔の考え方は古い”というのではなく、いい部分はきちんと残さなければいけないし、守っていかないと。それが、最低限の《厳しさ》だと思うんです」
この発言を聞いていて、僕は改めて「自分がどうして宮本慎也に惹かれるのか」を理解していた。「時代錯誤だ」「古い考えだ」と言われようとも、たとえ古くとも、現代まで続いてきたものにはそれなりの理由があるのだ。「明るく楽しいアットホームな野球」、そこに「厳しさ」が加味されたときに、本当の強さが宿り、「本当のファミリー球団」になれるのだと確信した。
最近の報道では「宮本氏、ヘッドコーチ就任へ」といった記事があふれている。もしもこれが現実のものとなれば、間違いなく宮本さんはヤクルトに「厳しさ」をもたらすことだろう。おそらく、それに反発する選手も出てくるかもしれない。だからこそ、「仏の小川監督」と「鬼の宮本ヘッド」の両輪できちんとバランスをとり、「緩さと厳しさ」の両立を目指し、強いチームを築いてほしい。
ヤクルト優勝監督の系譜は、広岡達朗、野村克也のような「外様の厳しい監督」と、若松勉、真中満のような「生え抜きののびのび監督」に大別できる。就任がウワサされている小川淳司新監督の下で帝王学を学び、近い将来、ヤクルト・宮本慎也監督が実現して優勝すれば、球団史上初の「生え抜きの厳しい優勝監督」が誕生することになる。
少々気が早いけれど、僕はその日を心待ちにしている――。
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