負担を減らすことを提案したのだが……
2020年末に糸谷八段が第46期棋王戦で挑戦権を争う中、棋士会で12月26日にYouTube公式チャンネルで生配信を行った。
事前の打ち合わせでは糸谷八段の負担を減らすことを提案したのだが、「対局が続いて準備に参加できずに申し訳ないので当日頑張ります」と返されてしまった。
結局、糸谷八段は配信の裏側を担当し、全時間帯に出演して生配信成功の立役者となった。
糸谷八段の判断基準は常にブレがない。
「ファンのため」「将棋界のため」に労を厭わず走り続ける。
棋士として年数を重ねてもその姿勢に変わりはない。
そして生配信の翌々日、棋王戦挑戦者決定戦二番勝負第2局で勝利して2016年以来となるタイトル戦出場を決めた。
棋王戦五番勝負の相手は8連覇中の渡辺明棋王。名人を含む三冠を保持する、最強の相手が五番勝負で待ち受ける。
「休みの日は何をしていますか?」「将棋を指す」
糸谷八段は渡辺名人に6連敗中で対戦成績も大きく負け越している。2015年の第28期竜王戦七番勝負ではタイトルを奪われた苦い思い出もある。
久しぶりのタイトル獲得に向けて視界良好とは言えない。
生配信の際、「休みの日は何をしていますか?」という質問に対して糸谷八段は「将棋を指す」と答えて視聴者を驚かせた。ノンビリするより将棋を指す時間のほうが楽しいのだという。
その答えを聞いた時、筆者の脳裏に16歳の糸谷三段の姿が蘇った。
対局の合間の休憩時間に負けた将棋を研究する、「将棋が好きな純粋さ」があふれたあの姿だ。
糸谷八段のその姿は、周りにも好影響を与える。いま「将棋を指す」相手である兄弟子の山崎隆之八段は、悲願のA級昇級を目前にしている。棋士会の役員も全体的に調子が上向きだ。
タイトル獲得となれば筆者が仕事を共にする機会はまた失われるかもしれないが、将棋界の顔として糸谷八段の活躍の場が広がるのは、将棋界全体にとって、ファンにとって素晴らしいことだろう。
棋王戦五番勝負は2月6日(土)に開幕する。