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2021/01/23

奄美大島で才能がバクハツする

 そこから代表作と目される作品が、続々と生み出されていく。奄美大島での田中の絵は、写実的だけどロマンチックで、繊細さと大らかさが同居した不思議な作風を示す。

 今展出品作の《奄美の海》や《アダンの海辺》にも見られるとおり、前景に樹木や木の実などを大きく配する構図は、南の島の風土の豊饒さや複雑さをよく表す。

田中一村《アダンの海辺》昭和44年(1969) 個人蔵(千葉市美術館寄託)©2020 Hiroshi Niiyama

 安藤広重や葛飾北斎ら、浮世絵の大御所たちによる風景画も想起させるところがあり、日本の絵画の伝統にのっとっているようにも見えるけれど、自然をデザイン化する手際には、田中ならではのユニークさが確かにある。

田中一村《彼岸花》昭和初期 川村コレクション(千葉市美術館寄託)©2020 Hiroshi Niiyama

 これだけ印象的な絵をものすれば、すぐ話題になりそうなものだけど、生前の田中はついに無名のままだった。没後に見直しが進み、今やたいへん高い評価と人気を誇るようになっているのは至極正当なことだ。

 田中一村《軍鶏図》昭和28年(1953)頃 千葉市美術館蔵(伊藤修平氏寄贈)©2020 Hiroshi Niiyama

 田中が晩年に、奄美大島というモチーフに出逢えたのは幸せだった。ただしその幸せな出逢いを生かせたのは、生涯を通してのたゆまぬ研鑽と蓄積あればこそ。そのあたりの機微が、展示を巡るだけですんなり納得できるのはうれしいところ。

 100点以上の展示品から、田中一村というひとりの人物の魂の遍歴を感得されたい。

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