昨年末、差別的な発言で炎上した大手化粧品メーカー「DHC」の代表取締役会長・吉田嘉明氏(79)。「文春オンライン」特集班は、差別発言以外にも吉田氏が従業員に消費者の口コミを大量にSNSに投稿するよう指示していたことや、「愛社精神指数」と呼ばれる指標で賞与額を決めていること、人事評価で低評価の社員を「穀潰し」と呼んでいることなどを詳報した。
報道直後から、編集部には続々と同社に関する情報が寄せられた。「報道内容はDHC社内の問題の氷山の一角に過ぎない」という。
そんな中で、ちょうど記事が公開された昨年12月28日、ひとりの男性新入社員が研修中の人事部付きの身でありながら、懲戒解雇処分を受けてDHCを去っていた——。
労働問題に詳しい神奈川総合法律事務所の嶋崎量弁護士が話す。
「懲戒解雇は『死刑判決』に例えられることもあるほど、労働者にとって最も重い処分です。仕事を失うだけでなく今後のキャリアにも傷がつく。それほど厳しい処分を、本配属もされていない研修中の、人事部付きの新入社員が受けることは、会社のお金を横領する等の犯罪行為を社内で行うような場合でもない限り、一般的にあり得ない」
新入社員はなぜ懲戒解雇処分になってしまったのか。「文春オンライン」特集班は本人に直接話を聞いた。(全2回の1回目/#2に続く)
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爽やかな青年がDHCに入社した理由
2020年4月、新型コロナウイルスが日本でも猛威を振るい始め、多くの企業がリモート業務を取り入れるなどの変化を求められていた頃、Aさんは都内の有名大学を卒業しDHCに入社した。Aさんは爽やかなルックスの青年で、大学在籍中にはダンスサークルにも所属していたという。
「就活が始まって企業研究をするなかで、DHCが化粧品だけでなく医薬品、アパレル、介護やホテル経営まで幅広く事業展開をしていると知り、志望しました。もともとIT関連の仕事に興味があり自主的に勉強していたのですが、DHCという誰もが知る大企業が展開する事業の数々をITの視点から動かすことに興味を持ち、入社に至りました」
しかし期待を胸を膨らませていたのも束の間、4月8日には緊急事態宣言が発令され、Aさんを含むDHCの新入社員は2カ月間の自宅待機となった。真新しいスーツに身を包んだのは、6月になってからだ。
「ようやく社会人になるんだと心が躍りました。専門企業の方から1カ月間ビジネスマナーを教えていただくことからDHCの新人研修がスタートしました。本格的な現場研修は7月からでした。20名弱の同期が各部署に仮配属されました。
DHCでは人事部が問題ないと判断した新人から順に本配属が決まっていくと聞かされていたので、気を引き締めて頑張っていこうと思いました」