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「行動する時が来た」「靖国の英霊と会話できる」陸自特殊部隊元トップの“危なすぎる世界観”

2021/02/01
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「別にコロナ怖くないけど/マスメディアはゴミだと知ってる/そのダルさはプロパガンダから来る/憔悴のせいだよ」

 男性がギターを弾きながら満面の笑みで歌う。2019年にリリースされた、瑛人の「香水」の替え歌だ。この不穏な動画をフェイスブックでシェアしたのは、荒谷卓。陸上自衛隊の特殊作戦群(2004年に発足した特殊部隊)の初代群長である。

 荒谷は先日、メディアを騒がせた。OBとなった現在も、毎年、現役自衛官や予備自衛官を募って、三重県で私的に戦闘訓練を指導していると報道されたからである。

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陸上自衛隊朝霞駐屯地の式典に参列した特殊作戦群の隊員たち(2007年) ©共同通信社

 それに加えて、同人は「作家の故三島由紀夫が唱えた自衛隊を天皇の軍隊にする考え方に同調するなど保守的主張を繰り返しており、隊内への過激な政治思想の浸透を危惧する声も出ている」という(「陸自OBが私的に戦闘訓練『楯の会に酷似』三島信奉」)。

陰謀論者ご用達の「ディープステート」も登場

 しかし、実態はより深刻なようだ。荒谷がフェイスブックでときおりシェアする動画の内容は、三島云々どころではない。

 いわく、新型コロナウイルスが危険なのではなく、ステイホームとマスク着用こそが人間の免疫力を落としている。いわく、新型コロナウイルスのワクチンは人間の体に未知の遺伝子変化を引き起こす。いわく、メディアはコントロールされており、世界の真実を伝えない――。

 果ては、陰謀論者ご用達のワード、「ディープステート」まで出てくる。この世界には、裏から人類を支配しようとする、権力者や資産家たちによる「闇の政府」が存在するらしい。

荒谷卓氏が主宰する三重県熊野市の施設 ©共同通信社

 さきに紹介した「香水」の替え歌も、ここで意味がはっきりする。ようするに、ひとびとが体のダルさを訴えているのは、コロナのせいではなく、むしろ「ディープステート」に支配された、マスメディアの情報操作のせいだと言うわけである。

 OBとはいえ、陸自の特殊部隊元トップがこの認識? さすがになにかの間違いでは。そう信じたいところだが、残念ながら、荒谷の著作を読むとその思いは微塵に打ち砕かれる。