男子に接種することで、将来的な男性から女性へのHPV感染を予防
世界に目を向けてみると、子宮頸がんワクチンは100カ国以上で接種され、オーストラリアや米国、イギリスなど約20カ国では男子にも推奨されている。
日本大学医学部附属板橋病院産婦人科の川名敬主任教授が話す。
「HPVが男性の咽頭がんや肛門がん、尖圭コンジローマの原因にもなるからです。また、男子に接種することで、将来的な男性から女性へのHPV感染を予防することができます。子宮頸がんワクチンというと女子だけのワクチンと思われがちですが、実際は男子にも大きく関わるのです」
日本ではこの12月にようやく男性への接種拡大に向け厚生労働省薬事・食品衛生審議会が審査することを決めたが、すでに男女ともに無償で接種を行うオーストラリアは、近い将来、先進国初の子宮頸がん排除国になると言われている。
前がん病変のみならず子宮頸がん自体への予防効果も
子宮頸がんワクチンが世界的に普及して10年が経った今、国内外で有効性を証明する報告が相次いでいる。
これまで、子宮頸がんワクチンの有効性の検証は、「がんになる手前の前がん病変を減らす」という報告が主だった。しかし、20年10月にアメリカの医学雑誌『ニューイングランドジャーナルオブメディスン』で、子宮頸がん自体への予防効果が報告された。スウェーデンの研究グループが167万人の女性を対象に、「子宮頸がんワクチンと子宮頸がんの発症の関係」を調べたところ、ワクチンを接種しなかった女性の子宮頸がんの累積発生率は10万人あたり94人だったのに対し、接種した女性は10万人あたり47人だったのだ。同じ北欧のフィンランドの研究でも、浸潤性子宮頸がんへの予防効果が既に報告されている。
また、前出の八木氏は、日本人女性における子宮頸がんワクチンの有効性を19年の日本ワクチン学会で発表済みだ。
「自治体から提供されたデータを解析し、定期接種導入前世代(1991~93年度生まれ)と、接種世代(94~96年度生まれ)の2011~16年度の20歳子宮頸がん検診受診者の細胞診異常者の精密検査の結果を比較したところ、前がん病変であるCIN3の発生率が前者では0・8%(7/890)、後者では0・0%(0/806)と有意に低いことが分かりました。子宮頸がんワクチンがCIN3を予防することが日本で初めて証明されたことになります」