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死亡者は年間約2800人…日本で「子宮頸がんワクチン」が広まらなかった代償

2021/02/03
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予防効果は性交渉後でも

 根本の原因は、日本が医療情報を戦略的に提供する専門機関を持たないことにある。東京都立小児総合医療センター感染症科(取材時)の医師で、途上国の公衆衛生活動に尽力する堀越裕歩医師は話す。

「米CDC(疾病対策センター)のように情報を分析して正しい情報をしっかりと届ける医療情報発信機関が日本にはありません。特にワクチンは健康な人に打つため恩恵が理解されにくい反面、リスクには過剰反応が起きやすい。科学的な理解を社会に促し、多くの人がその恩恵を受けるためにも、国はワクチンの専門家と、広報のプロフェッショナルから成る独立した情報発信機関を設立することが必要です」

堀越裕歩医師

 今の日本では、国民が自分で情報収集し命を守るしかない。上田講師が話す。

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「HPVワクチンの接種対象は基本的に性交渉開始前の女子ですが、性交渉を持った後でもワクチンが予防できる型のHPVに感染していなければ、接種による予防効果が期待できます。抗体は年長者より若年者のほうがつきやすいことが研究で判っています」

 20年7月には、ほぼすべてのHPV関連がんを予防できる9価ワクチン「シルガード」が日本でも薬事承認された。先進国ではすでに主流になっているものだ。

「承認直後のため、今は供給体制の準備段階です。自費で受ける余裕があるならば、1回3万円程度(3回接種)と高額ですが男女とも9価ワクチンが理想です。また、女子への無料の定期接種に組み入れられている2価や4価の子宮頸がんワクチンも、定期接種の時期を逃すと1回約1万5000円(3回接種)になるので注意してください。接種を望まない場合は、女性は20歳以降、子宮頸がん検診を2年に1回は受け、早期発見・早期治療に努めて自分の健康と命を守ってください」(八木氏)

©iStock.com

うちだともこ/1977年山口県生まれ。婦人科疾患、周産期医療、不妊治療を中心に取材活動を行う。日本医学ジャーナリスト協会会員。

死亡者は年間約2800人…日本で「子宮頸がんワクチン」が広まらなかった代償

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