独裁者の絢爛豪華な宮殿は民衆の怒りを爆発させる
それにしても、歴代のロシアの最高指導者は黒海沿岸が好きらしい。ロシア革命まで約300年続いたロシア帝国の最後の皇帝ニコライ2世はクリミア半島に離宮を所持し、家族で最後の時を過ごした。2014年に冬季五輪が開かれた保養地ソチでは、ソ連の独裁者ヨシフ・スターリンが別荘を構えた。そして、ソ連最後の大統領、ミハイル・ゴルバチョフはクリミア半島の黒海沿岸のフォロスに休養中の1991年夏、古参共産党幹部のクーデターにより、軟禁状態に置かれた。ロシアの最高指導者と黒海沿岸の邸宅の組み合わせには不幸も付きまとう。
過去の歴史を紐解いても、ルーマニアのチャウシェスク大統領しかり、リビアのカダフィ大佐しかり、フィリピンのマルコス大統領しかり……独裁者の絢爛豪華な宮殿は民衆の怒りを爆発させ、その後のクーデターや政権転覆につながったケースは少なくない。
ロシアでは2014年のクリミア併合以降、欧米の制裁措置が国内経済に打撃を与え、民衆の暮らしぶりが次第に汲々としてきている。貧富の差はさらに広まり、高齢者は少ない年金で糊口をしのいでいる。さらにプーチン体制が20年以上の長期に及ぶに至り、仲間内の側近政治がさらに加速、社会の閉塞感も強まっている。
「宴会の悪役たちに従うことに賛成しないでほしい」
ドイツの専門家はロシアの抗議デモはナワリヌイ氏の釈放を求める勢力だけでなく、こうした苦境を訴える人たちも集まってきていると指摘している。
ナワリヌイ氏は動画の最後にこんなメッセージを付け加え、民衆に呼びかけた。
「私たちのすべきことはただ一つ。耐えることをやめましょう。立ち止まって待つことをやめましょう。私たちの暮らしと税金をお金持ちの人々に使うのをやめましょう。私たちの未来は私たちの掌中にある。沈黙しないで。そして、この宴会の悪役たちに従うことに賛成しないでほしい」
ソ連崩壊から30年。ロシアはまた、激動の年を迎えるのか。プーチン大統領がナワリヌイ氏の処遇を間違えば、王国崩壊に向かう加速度はさらに強まるかもしれない。