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 あくまでスポーツやその大会というのは、手段であって目的ではありません。特にアメリカのスポーツ界はそういった考え方が非常に強いです。

 自分が打ち込んできた競技を通じて学んできた目標達成能力や、タスク管理の能力をどう活かすのか。もちろん競技そのものへの還元でもいいでしょうし、全く別のビジネスに活かすのでも良い。五輪もそのひとつの舞台でしかないはずなのです。アスリートの皆さんには結果だけでなく、大舞台を目指してやってきたという「プロセスの価値」をぜひ、今一度考えてほしいと思います。

結果だけでなく「プロセスの価値」を考えてほしい

 そういえば、そんなスポーツへの考え方に関する日米の違いで、非常に印象的なことがありました。

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 11月末、感染拡大を鑑みてスタンフォード大が属するサンタクララ郡より「コンタクトスポーツ禁止令」が出ました。プロも大学も含めて、アメフトとバスケットボールは、サンタクララ郡内では試合はおろか練習も禁止になってしまった。ただ、この時点ではまだ公式戦が3試合残っており、12月19日が最終戦の予定でした。結果的に、ホームゲームだった試合はアウェイゲームに変更になり、残りの3週間はアウェイの地に行って練習と試合を繰り返すということに決まりました。

 実はこの遠征に入る直前には、ヘッドコーチから「もし来たくない選手・スタッフが居たら来なくてもいい」という話があったのです。

 なぜかというと、この遠征に出てしまうと試合後にサンタクララ郡に帰ってきたときに、2週間の自主隔離になってしまう。そうすると、家族とクリスマスが過ごせなくなってしまうんですね。実際に主力選手を含めた何人かはこの遠征に参加しませんでした。でも、それについて文句を言う仲間は当然、いませんでした。日本ではなかなかこういう決断はしにくいように思います。

「人生とスポーツ」の在り方

 コロナの影響で試合数が少ない今シーズンですから、プロを目指す選手にとってスカウトにアピールする貴重な機会を捨てることになるわけで、非常に大きな決断だったはずです。これまでフットボールに日々打ち込み、厳しいトレーニングを重ねてきて、それを自ら放棄するのは忸怩たる思いもあったでしょう。でも、彼らは家族と過ごす時間の大切さを選んだわけです。もっと言えば、「自分の人生にとってスポーツはとても大事なもの。ただ、それだけがすべてではない」という風に考えているんです。

 おそらく五輪に関しても、例えば「ワクチンの副反応が分からないうちは、それを打ってまで五輪に出ることは選ばない」という選手が欧米では一定数、いるはずです。彼らは五輪に向けて日々競技に打ち込んではいるけれど、「それだけがすべて」とは考えていないからです。

©️Tsyuoshi Kawata

 五輪開催が不透明ないまの時期だからこそ、ぜひ日本のスポーツ界でも「人生とスポーツ」というものの在り方を考えるようになってくれるといいなと思っています。

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河田 剛

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