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築18年、オフィスに不向きなブーメラン形…“一昔前”の香り漂う「電通ビル」の本当の価値とは

2021/02/09
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エイベックス本社ビル、三陽商会のギンザ・タイムレス・エイトも売却

 この売却話があった直後の同年11月。今度は港区青山のエイベックス本社ビルが売却されるという情報が飛び交った。エイベックスは多くの俳優、歌手、スポーツ選手などを抱えるエンタメ会社。コロナ禍による業績悪化を理由に社員100名以上を解雇、本社ビルの買主はカナダの不動産投資ファンド、ベントール・グリーンオーク、売却価格は720億円とみられる。このビルは2017年の竣工。本社ビルとして内装まで相当に手を入れ、コーポレートカラーを前面に押し出していたビルであるだけに、その売却は、エイベックスをはじめとしたエンターテイメント業界が置かれている厳しい状況を表すものだ。

 このほかにも本社ビルではないものの、昨年8月にはアパレル大手の三陽商会が保有する中央区銀座にある基幹商業施設、ギンザ・タイムレス・エイトが、約120億円で、日本の不動産会社レーサムに売却された。このビルは19年9月に大規模なリニューアルを実施した直後だっただけに関係者に衝撃を与えた。

築18年経過した巨大な電通本社ビル

 さてこうした状況下での電通本社ビルの売却について考えてみよう。まずはこのビルの巨大さに驚く。敷地面積だけで5200坪を超える広大な土地だ。そして建物は、オフィス棟は高さ213mの48階建て、高層部のスカイレストラン、低層部の商業施設部分や劇団四季の常設専門劇場「海」、広告資料館アドミュージアム東京など「カレッタ汐留」と呼ばれる部分を含め、延床面積で7万坪を超える。建築されたのは2002年。すでに築18年を経過している。

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ゆりかもめ線・新橋駅 ©️iStock.com

 さて、このビルの資産価値だが、なかなか査定が難しそうだ。私はかつて大手デベロッパーに勤め、その後もオフィスビルや商業施設を扱うREIT運用会社に在籍したが、この建物をみると唸ってしまう。電通はビル売却後もしばらくテナントとなって借り上げるので、オフィス部分は当面安泰かもしれない。だが、私の知り合いの電通社員に聞くと、今、電通では多くの社員が個人事業主扱いとなり、本社ビルで仕事を行うのは2割程度しかいないという。電通のような職種であれば、オフィススペースは打合せ用の会議室を除けばほとんどいらない。ということは中長期的にこのビルのアンカーテナントであり続ける保証はなさそうだ。