2000億円がリーマンショックを経て1400億円に
わかりやすい事例がある、東京駅八重洲口の南に建つパシフィックセンチュリープレイスだ。このビルは2001年に旧国鉄の停車場跡地を入札により取得した香港のパシフィックセンチュリーグループが建てた地上32階、延床面積約2万4千7百坪のオフィスビルだが、過去に何回かにわたって売却されている。
最初にこのビルに手を染めたのが2006年9月に取得したダヴィンチアドバイザーズだ。当時はファンドバブルと言われた時代で、ファンド運営会社の大手だったダヴィンチが取得したものだ。当時私も、ある不動産ファンド運営会社に在籍していて、パシフィックセンチュリーの会長の訪問を受け、購入を打診された。私がはじいた購入価格は1500億円。ところがダヴィンチが示した価格は2000億円。私の提示価格は歯牙にもかからぬものだったのだ。
ところがその後ファンドバブルはリーマンショックとともに崩壊。ダヴィンチは多額の負債を抱えて倒産する。その後を襲ったのが不良債権投資を得意とする米国の私募ファンド運営会社セキュアードキャピタルだ。リーマンショック吹き荒れる2009年12月、取得価格は1400億円。当時は都心5区のオフィスビルの空室率は8.09%。オフィス投資に多くの投資家が後ろ向きになる中、思い切り安値での取得に成功したのだ。
この手のファンドは見切りが早い。アベノミクスで経済が回復軌道に乗りつつあった2014年10月に現在の所有者であるシンガポールのGICに1800億円で売却する。たったの5年で400億円もの多額のキャピタルゲインを手にできたのだ。投資家としてはやり手である。
エイベックス本社ビルは築3年、電通本社は築18年
されど捨てる神あれば拾う神あり、というのが不動産投資の世界だ。世界中でカネが余っているという現在、だからといって何でも投資してよいというわけではない。私から見れば米国などの洗練された投資ファンドなどは既に物件を売り切って利益を確保したところが多い。これからマーケットが下がる。その下がりきる局面を見極めるのが彼らの手法だ。
エイベックス本社ビルを買った投資利回りも、想像するに2%台と思われる。エイベックス本社ビルは築年もわずか3年、真新しいビルだが、電通本社は築18年。そろそろ設備関係の大規模な更新を迎える時期でもある。オフィスを必要としないリモートワーク隆盛の時代を迎える中、さて昭和平成の香りがプンプン匂う、電通本社ビルはどのような運命を世の中に与えていくのだろうか。