例えば、妻がボランティアでマスクを自作して配ろうと手芸教室へ習いに行ったところ、Cさんは「そんなことで外出をするのか」と注意。それが妻の気持ちを逆撫でし、「私のためじゃない。困っている人に届けたいのに!」とミシン箱をCさんに投げつけたのです。
しかし、妻の“癇癪”にも見える行動には布石がありました。妻は癌の手術歴があり、コロナ対策に神経を使う日々。一方のCさんはタバコを1日に2箱吸うヘビースモーカー。妻が「私の前でタバコを吸わないで」と頼んでも、Cさんは台所の換気扇の傍ならいいだろうとタバコを吸い続けました。ついに妻は空気清浄機を購入して自室から出て来なくなり、Cさんはどうして良いか分からず事務所へ相談しに来たのです。
当初は自分の落ち度に気が付いていなかったCさんですが、「ものを投げるのは許されないことです。ただそれ以前に夫婦のコミュニケーションが成立していないのでは」と指摘し、全員が抱えている自粛のストレスを緩和するには、お互いの気遣いと息抜きが必要、と伝えました。2人は緊急事態宣言が解除された後には、感染対策をしたうえでたまに外食の機会を作るなど、夫婦の亀裂を埋める努力を続けています。
暴発した側だけを責めても…
DVというのは、最終的に暴力に訴えた人が悪者になりがちです。しかし、積もり積もった不満が限界を超えて暴力に至るケースもあります。長年の抑圧から一方が暴発した時に、暴発した側だけを責めても問題は解決しません。これは男性、女性どちらでも同じです。今回紹介した3ケースも最終的に手を出したのは妻側ですが、「夫側には全く問題がなかった」と感じる人は少ないでしょう。
夫婦の関係が良好で、子供の教育やコロナ対策のような厳しい局面でも話し合って折り合いをつけられればもちろんベストです。しかし、そんな理想的な夫婦ばかりであれば、国内だけで年に20万件もの離婚が起きるはずはありません。多くの夫婦は、理想的でもなければ離婚するほどでもない、ほどほどの関係性を維持していることでしょう。そうであればこそ、相手に対する期待値を上げすぎないことも大切です。
一般的に体格で劣る女性が男性に手をあげるのは「よほど」の状況です。しかし何が相手のストレスになっているかを察知して、問題が深刻になる前に解決するのはそう簡単ではありません。それができずに妻が爆発した以上は、それを最後のSOSサインだと考えるしかありません。
緊急事態は、人の本性や不満が表面化しやすい時期です。前回の緊急事態宣言下の事例を教訓に、1組でも多くの夫婦がこの山場を乗り越えることを願っています。