2021年1月に発令された2回目の緊急事態宣言。外出自粛によって会社への出勤だけでなく、飲み会や旅行という楽しみを奪われ、終わりが見えないままただ耐える日々がまた到来しています。DV件数の統計には、自粛生活の不満が家族への暴力として噴出する様がハッキリと現れています。内閣府の発表では、昨年4月から始まった2020年度のDV相談件数は、毎月1万5千件超という過去最高のペースを記録し続けています。
ところでDVと聞くと、手を上げるのは力の強い男性や夫ばかりだと思っていませんか? もちろん内訳をみれば男性が加害者のケースの方が圧倒的に多いですが、8000件を超える離婚相談を取り扱ってきた筆者の感覚では、近年になって女性(妻)が手を上げるケースも急速に増えています。
そしてDV被害を受けた女性への支援と比べると、被害者男性への支援はかなり貧弱な状況です。目の前の状況に対処する方法についての情報も少なく、「男の自分がDVを受けるなんて……」と周囲に相談できないケースもいまだに多いです。
そこで1度目の緊急事態宣言が出た昨年4、5月に「妻の暴力に悩んでいる」と駆け込んできた3人の男性のケースを通じて、「男性から見たDV被害との向き合い方」を紹介したいと思います。
引き金は緊急事態宣言
「あいつに任せていたら命がいくつあっても足りません!」と昨年の春に声を荒げて相談にやってきたのは、1人目の相談者・Aさん(39歳)。妻(38歳)、長女(14歳)との3人暮らしでした。
トラブルの引き金は、緊急事態宣言でした。会社員のAさんと妻は在宅勤務、中学生の長女もリモート授業という日々が始まりました。しかし長女は両親と顔をつき合わせる生活に息が詰まったのか、徐々に両親の目を盗んで夕方に外出するように。20時を過ぎても帰宅しない日もありましたが、心配するAさんを横目に妻は全く動じるそぶりを見せず、海外ドラマを見ながらスマホをさわるばかり。
見かねたAさんは「休業中の店ばかりで人通りも少なくて治安が心配だ。犯罪に巻き込まれたらどうする?」と問いかけましたが、妻は「何も知らないくせに。もう何歳だと思っているのよ!」と、長女を探しに行く気配はなし。
そこで反射的にAさんが言った「聞く相手を間違えた!」という捨て台詞が決定的でした。突然立ち上がった妻がAさんのスマホを顔面めがけて投げつけ、それが命中。危険を感じて一目散に家を出たAさんは、目の周りが青く腫れ上がって徐々に視界がせばまる中で長女の捜索を開始しました。