現実の話かと錯覚するほどリアリティある小説『彼女のスマホがつながらない』(小学館)。パパ活をするお嬢様女子大生、殺人事件を追う警察官と週刊誌編集者――。過去と現在の2つの時間軸で描かれたミステリーだ。
著者の志駕晃さんは、同作でパパ活や奨学金制度に潜む貧困問題に目を向けたと言う。志駕さんに話を聞いた。(全2回の1回目。後編を読む)
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「モデルのような美人が、5万円で――」
――『彼女のスマホがつながらない』ではお嬢様大学に通う女子大生が登場します。彼女たちの「パパ活」というお金の稼ぎ方が印象的でした。
志駕 パパ活は3年程前から広がった言葉。男性と食事や性交渉をしてお金をもらうシステムで、相手が既婚者であることがほとんどです。愛人のような立ち位置で、相手がお金持ちだと、時には海外旅行へ連れて行ってもらえることもあるんです。そこだけクローズアップすると、女性にとっては楽しそうに感じられ、惹かれるのかもしれませんね。
――小説を書く上で、パパ活の取材もされたそうですね。
志駕 一昨年の秋からいろんなところに取材に行きました。というのも、パパ活って「食事だけ」「性交渉あり」などさまざまなパターンがあるんです。言葉として広い意味を持つので、取材も多岐にわたりました。
私は主に高級交際クラブを取材していて、パパ活をしている20代の女子大生など、約10人に話を聞きました。どの子もキャバ嬢などの夜の街っぽさはなく、美人で受け答えもしっかりしていて、性格も明るい魅力的な子が多かったですね。でも突っ込んで話を聞くと、「体の関係アリは5万円でーー」という話になる。正直、ぎょっとします。
今回、パパ活をする女子大生を小説に登場させたのにはいくつか理由があります。一つは『女性セブン』の連載小説企画だったから。同誌の読者は30代後半から60代の女性が中心。パパ活というテーマは「自分の娘がパパ活をしたら」「もし、若い頃にパパ活があったら」と興味を持っていただけるのではないかと思いました。
また、パパ活の背景には女性の貧困問題があります。これはデビュー作の『スマホを落としただけなのに』(宝島社)から、私が興味を持って調べている分野でした。
現代の日本女性は、昔に比べると奨学金返済に苦労したり、派遣社員などの不安定な雇用が増えたりして、都内で独り暮らしするには厳しい状況に陥っています。そこを描きたいと思ったんです。