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呉服屋が怖い!

 これぞ呉服屋の醍醐味ということか。

 すなおさんもスゴイけれど、お客もスゴイ。だって呉服屋の敷居をまたいでいるのだから。訊けば、富裕層はごく一部で、顧客の多くはローンで購入するごく普通の会社員や主婦だったという。店員と楽しくやりとりをして着物を購入するなんて、私にはとてもムリそうだ。こうしたエピソードを聞くと、ますます敷居は高くなる。

 私はここで、率直な疑問をぶつけてみた。

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イラスト:田尻真弓

「私、呉服屋がめちゃくちゃ怖いんです。でも着物をかじっているなら、一度くらい行ったほうがいいんでしょうか?」

「怖いという気持ち、よくわかります。私も『買わへん』と言ったとたんに対応が冷たくなって、コワ~と思ったことがありますから」

 すなおさんは、呉服屋の販売スタイルの問題点をあげた。

呉服屋に行くメリットとは?

「質問しても、決まりだからと言われて詳細がわからないことが多いし、着物関係のことは複雑なので自分で調べるのも難しいです。アンティークショップやリサイクルショップだけでも、着物を楽しむことはじゅうぶんできるので、無理に呉服屋に行く必要はないと思いますよ」

「それじゃあ、あえて呉服屋に行くメリットって何なんですか?」

 すなおさんがメリットとしてあげたのは、つぎの三点だった。

 その一は、贅沢感。特別な雰囲気の空間で、自分のためだけに店員が対応してくれる状況は日常にはないレアな体験だ。

 その二は、着物の知識が増えること。作り手の情報や商品のバックグラウンドなど、豊富な専門知識に触れることができる。

 その三は、最新の芸術品を鑑賞できること。呉服屋とは、現代の最新の意匠を凝らしたものが集められている場所なのだ。

©iStock.com

 着物は芸術品というのなら、いっそのことギャラリーとして公開してくれればいいのに。学芸員さながら専門知識の豊富な店員の説明に耳を傾けながら、最新着物モードを鑑賞できるなんて、ディープな眼福タイムを楽しめそうではないか。絶対に営業しないと約束してくれるなら、個人的には入場料を払ってもいいくらいだ。

 買わないといけない美術館から、買うこともできる美術館になれば、敷居もぐっと低くなる。

着物の国のはてな

片野 ゆか

集英社

2020年9月25日 発売