「着物を着てみたいけど、自分一人では着られない…」そんな着物初心者にぴったりの存在のように思える「無料着付け教室」。しかし、なかには悪質な着付け教室もあり、参加者からのクレームがまとめられたサイトも存在している。

 それにしても、なぜ「無料着付け教室」は無料で運営できているのだろうか。ここでは自らも着物を着るノンフィクション作家の片野ゆか氏が、複雑怪奇な着物についてのあらゆる疑問を解き明かそうと奔走した書籍『着物の国のはてな』(集英社)を引用。「無料着付け教室」運営のカラクリを紹介する。(全2回の1回目/後編を読む)

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受講料無料のビジネスモデル

 染匠株式会社が運営するこのサイト(※編集部注:一般消費者が体験した着付け教室・呉服店の口コミ・評判・クレーム事例が投稿されている)には「知らないと後悔する着付け教室の話」という、着付け教室に特化したコーナーもある。ここまでザックバランに業界事情を暴露している会社なら、私が抱く疑問についても教えてくれそうだ。さっそく染匠株式会社に連絡をとってみた。「着付け教室のトラブルの多くは、講師やスタッフによる強制的な着物販売です」というのは、同社広報担当のAさんだ。

©iStock.com

 見るだけで勉強になる、コーディネートの勉強をしてほしいなど、着物経験値の向上をたてまえに販売会へ参加させるのが常套手段。とはいっても、今どき軟禁状態で販売なんて、法律的にも難しいと思うのだけれど、それに近いことがおこっているのだろうか?

「過去には遠方までバスなどで行き、見学会のあとに展示販売がおこなわれるケースがあったようです。団体行動なので、ひとりでは帰りづらい環境です」

 Aさんは、熱心な販売と押し売りの区別が難しいのは、生徒のほうも興味ゼロではないからだという。販売目的のイベントとわかっていても、着物が好きで習っていたら、着物や帯を試着してみたいという気持ちを持つのはむしろ自然なことだ。

着物を脱げない状況で行われる勧誘・商談

「ただ、数人のスタッフにかこまれて勧誘や商談がおこなわれますと、見たいだけの人や買う気のない人は、嫌気がさして苦痛となることもあります。人体に装着されますと自分からは簡単に解くことができないので、そのときは恐怖心に変わるかもしれません」

イラスト:田尻真弓

 聞いていてゾッとした。

 連想したのは、どんなに「いらない」「買えない」と言っても、相手にその声が届かない状況だ。自分では脱ぐことができないなかで、複数のスタッフにとりかこまれて、ローン返済計画をたてるために電卓を叩かれ続けるなんて、まるで拷問かホラーじゃないか。よほど購買意欲がないかぎり、販売会で試着なんかしちゃダメなのだ、とあらためて肝に銘じた。