綾野剛さんの快諾でスタート
――映画の中での刑事のセリフで「これからは社会でヤクザを裁くのは法や警察だけじゃない。世の中全体に排除されるようになります」とありますね。
藤井 ヤクザが排除されていくひとつの歴史を、クロニクル(年代記)としてちゃんと描くことに意味があるんじゃないかと思い、1999年、2005年、2019年の3章立ての構成にしました。1999年をスタートにしたのは、現代のヤクザ映画を綾野剛さんでやるときに、それらの時代を生きた「山本賢治」の一代記として描きたい、綾野さんによる、この20年間の物語にしたいと思ったからです。
――「山本賢治」は綾野剛さんのハマり役でした。
藤井 僕は河村プロデューサーに「綾野さんの演技はとてもいいですよね」とよく言っていたのですが、企画を始めたばかりの頃、河村さんのほうから「今度の映画の主役、綾野さんはどうだろう?」との提案があり、もちろん僕も賛成で、すぐに綾野さんに出演のオファーをしました。
そのときはまだ短いプロットしかありませんでしたが、それでも綾野さんは「このチームなら面白いものができるから、是非やりましょう」と言ってくれて、出演が決まりました。それからシナリオに着手したので、この映画の脚本は綾野剛さんへの「当て書き」に近い感じで書かれたものなんです。
イキった19歳、羽振りのいい25歳、ショボくれた39歳
――映画で驚いたのが、綾野剛さんがヤクザに追われるシーンです。綾野さんが路地から飛び出すと車に跳ね飛ばされ、すぐに起き上がって、また走る。これを、スタントマンなしで綾野さんが自らやっていますね。
藤井 そうなんです。普通、スタントなしで車にはねられるシーンを撮ろうとしたら、俳優の事務所か本人に怒られますよね(笑)。
あのシーンは、アクション監督と「ここでスタントに切り替えて、車にはねられるカットを撮ろう」などと話していたのですが、それを聞いた綾野さんが「それ、自分でやろうか?」と言い出して。僕は「スタントを用意していますけど」と言ったのですが、それでも綾野さんは自分で演じてくれました。おかげでワンカットで一気に見せることが出来ました。
――本作では19歳から39歳を綾野剛さんは演じわけています。39歳の淋しくてショボくれた綾野さんは肩まで淋しく、骨格まで演技しているかのようでした。
藤井 19歳の「山本賢治」を演じるときの綾野さんはイキっているけど猫背で、羽振りのいい極道になった25歳を演じるときは微動だにせず堂々としています。ところが刑務所から出てきた39歳になると肩がすごく落ちて、なで肩になっている。こうした佇まいについて言えば、現場で僕から「綾野さん、もっと肩を下げてください」とか、そういう演出はしていないんです。
綾野さんは映画に深く関わろうとしてくれる俳優で、だから脚本を読んで、そこに感じる匂いみたいなものをそれぞれの年代で自ら演じてくれました。