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そうしてできた作品が《sun bath》。
猫の毛を撫でたときのやわらかい触感や、昔懐かしい板ガムのすこしざらついた歯ざわりが、画面を乗り越えてこちらにまで伝わってくる。
いつ訪れるとも知れない猫とつくった作品であり、偶然性をたっぷり含むところにも惹かれる。迷い猫との邂逅だって、思えばその一度ずつが稀少なものである。
こうして展覧会場で作品と出逢うのも、まさに一期一会のことなのだなと気づかされる。
あらかじめ「裂け目」を持った陶磁作品
視点をズラすのではなく、ひとつところを見続け、見直すことで生まれる作品もある。
陶磁を用いて創作する新里明士の展示は、居るだけで「凝視の力」が空間に漂っているのを感じさせる。
こんな経緯からできた作品群であるという。
昨年来のご時世柄で新里は、工房にこもる時間が増えた。作品発表の機会は減って、淡々と制作を続ける日々。
工房の一隅には以前から、制作途上でワレやキズの生じてしまった作品が、処分を待つように積まれている。あるとき、そうした「失敗」の中の一点が目に入った。器の肌に、大きな亀裂が入ったものだ。