私立学校のブラック校則と同じく外部からとやかく言えない面も
しかし、私自身はまず、”ルールを疑う“という姿勢でいます。そのルールに合理性や必要性があるのか、そういったことを考えずに『ルールがあるのに破る人は間違っている』と結論付けて排除するだけではなにも進みません。
ただ、JBCのルールは、内部の民主的な手続きを経て決まっているものだと思うので、このルールがある以上、井岡選手がそれに違反したから何らかのペナルティが科されるという点については外部からとやかく言えない面もあります。例えば、私立学校のブラック校則について、外部からいくら批判が出ようとも、その是非については最終的には学校内部の判断に委ねられるといったことと同じです。自律的な団体のルールには司法の審査も消極的になる。そこは団体内部の問題となってしまうのです」
今はタトゥーに対してリスペクトの念を持っている
1月21日、JBCは現行のルール変更は行わないとし、井岡とジムの会長に対して厳重注意処分を下した。
「今のルールのままでは、井岡選手が活躍の場を海外に移すということになるかもしれません。タトゥーを消さない限り日本のリングに上がれないことになると、今後、日本で井岡選手の試合が観られなくなるかもしれない。それは井岡選手を応援している人たちや、ボクシングを愛する人たちにとって大きなマイナスです。JBCも組織の中だけを見るのではなく、外側に目を向けて、ボクシングという競技の発展や優秀な選手が活躍できる環境の整備などを考え、第2の井岡選手が生まれる前にタトゥーにネガティブな世論に先駆けた姿勢を示して、一歩先を行ってほしいです。
私がこういう風にタトゥーについて考えるようになったのは、『タトゥー彫り師医師法違反事件』を担当したことが影響しています。私も普通の人間ですから、全身にタトゥーが入っている人が向こうから歩いて来たら、それまでは目をそらしていたと思う。ただ、あの裁判を通して、彫り師という職業の人たちがいかにアーティストであり職人であるかが分かったのです。彼らが渾身の思いで作った作品がいかにすばらしいかも分かるようになりました。今では彫り師自身や彼らが作るタトゥーに対してリスペクトの念を持っています。
どうして自分がそこまで変わったかというと、それはやはり今まで自分がタトゥーというものにあまりにも無知すぎたということに尽きるんだと思います。
知らないから、偏見を持ったり差別したり、誤解したりする。ですから、まずはこの問題を契機にして、ボクシングを含めたスポーツ選手とタトゥーの関係について改めてゼロベースから考えてみることが大事ではないでしょうか。ルールだからダメではなく、そのルールを疑うところから始めてみるべきだと思います」