自殺を止める者は最終的には自分しかいない。1月、新型コロナウイルスに感染して自宅で療養中だった30代の女性が「娘にうつしてしまったかもしれない」などと思い悩むメモを遺して命を絶ったことが明らかになった。折しも全国の自殺者数が昨年、飛躍的に増大したことを国が発表した日。死神の正体はコロナか、自粛か、メディアか、それとも――。

新宿のビジョンで小池都知事がステイホームを呼びかけている ©iStock

一家全員「陽性」、「再会」の翌朝の悲劇

 年末も仲睦まじく過ごしていたであろう家族に異変を生じさせたのは正月を迎えて間もないころに届いた夫への「陽性」通知だった。1月初め、都内に住む夫は無症状だったこともあり、ホテルでの宿泊療養を選んだ。

 療養中に容態が急変するニュースが相次ぐなか、妻や娘に不安は残っただろうが、選択肢はあまりない。夫が一人、ホテルへと発って間もなく、夫の濃厚接触者にあたる妻と娘に、同じく「陽性」の通知が届いた。2人は自宅での療養を選んだ。

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 家族全員が感染したとはいえ、3人はいずれも無症状だ。これまでの症例からすれば、2週間ほど辛抱すれば、また日常が、少なくとも「新しい」日常が、戻るはずだった。

 実際、夫は1月14日に療養を終えて自宅に戻った。遅れて陽性となった妻や娘はまだ自宅療養中。同じマンションの部屋のなか、3人は顔をあわせることなく、壁を隔てて一夜を過ごした。部屋といってもそう広いわけではない。寝息に耳を澄ませながら、薄皮一枚隔てた再会に、ひとまず無事の生還に、夫は久しぶりの休息を味わったはずだ。

写真はイメージです ©iStock

 だが、翌15日朝、妻の部屋は奇妙に静まりかえっていた。人の気配が消えていた。長年同居すれば、それなりの気配は察して当然。不安にかられ、室内を確認すると、固くなった妻の体があった。自殺だった。部屋には、自分が娘に感染させた可能性を疑い、家族に謝罪する内容のメモが遺されていたという。