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「話したくないのです」

 2010年秋、私は茂の弟を自宅に訪ねた。法廷で兄の無念さと哀しさを代弁し続け、詩織を断罪、植物状態となった兄を最後まで献身的に世話し、葬儀も出した弟。事件の全体像を知る人物に、どうしても話を聞きたいと思ったからだ。

 今は横芝光町から車で20分ほどの某市内に、ひっそりとひとりで住んでいるという。彼の職場は夜勤が多いためか不在が多く、何度か空振りした後のある日、やっと彼の在宅日にぶつかった。インタホンを押す。

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「ハイ」

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 低音のやや太目の声。取材主旨を伝えると、弟はインタホン越しにこう答えた。

「(事件に関しては)話さないことに決めているのです」

――お兄さんは昨年、お亡くなりになったのですよね

「そういうことですね」

――お兄さんがあんなふうに亡くなったことをどう受けとめてますか

「話したくないのです」

 その言葉には強い無念が滲み出ていた。

 私は、その弟の訪問と前後して、9月23日のお彼岸の中日に鈴木茂の墓に赴いた。千葉県横芝、小田部の共同墓地はお墓参りの人たちで混雑していた。その墓地の片隅に鈴木家の墓がある。最近花が供えられたばかりの墓碑には、こう記してあった。

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金剛院静行道茂清信士 平成21年7月206日 没年59歳

 私は静かに手を合わせ冥福を祈った。

 詩織が獄中にいることすら知るよしもなく茂は逝った。    (文中一部敬称略)

【了】
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中国人「毒婦」の告白

田村 建雄

文藝春秋

2011年4月20日 発売