2006年、“中国人妻の夫殺人未遂事件”が世間を騒がせた。お見合いツアーを経て結婚した中国人妻の鈴木詩織と、親子ほども年の離れた夫、鈴木茂。その詩織がインスリン製剤を大量投与するなどして、茂が植物状態に陥ったのだ。夫の目を盗んで性風俗で働いていたことや、1000万円で整形した等との噂も影響して、センセーショナルな報道が相次いだ。そんな中、事件記者として取材を進めていた、田村建雄氏は、獄中の詩織から300ページに及ぶ手記を託される。取材の様子を『中国人「毒婦」の告白』から抜粋して紹介する。

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「私はもう一度人生をやり直します」

 しかし詩織は、その悲しみや心の痛みに、打ちひしがれ、ひたすら泣き暮らすような弱い女ではなかった。

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 控訴審判決後の、ある日、久々に面会に訪れたときのことだった。近況を聞き、何かの拍子に出所後の話になった。すると、詩織はキッパリとこう言った。

「刑務所を出たら茂さんときちんと離婚して、私はもう一度人生をやり直します」

 その言葉には「刑務所を出たらまっすぐ、病院に行って看病したい」と書いてきた手紙の文面よりも、強い意志が感じられた。

 とまどった私は思わずこう言った。

「その時は、やはり中国に帰ったほうがいいんじゃないだろうか。親戚や知り合いも多いのだから」

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 逮捕時、詩織は、200~300万円のお金を所持していたようだ。自らの肉体を張って稼いだ貴重なお金だ。そのほとんどを、彼女は中国の子ども達に50万円、親兄弟に50万円、親戚の誰それに30万円と惜しみなく送金していた。私は、その金の残りを中国での新生活の出発資金にするつもりではないか、と考えていた。

 しかし詩織は私の目を真っ直ぐ見据えながら、激しく首を振って、やはりキッパリこう言ったのだ。

「絶対帰らない。私は日本で生きていきます!」

 その決意の激しさの背景にあるのが、彼女特有の性格なのか、中国女性固有の資質なのか、農村戸籍という差別的状況に押し込んでいる中国社会への反撥なのかは私には分からない。

 ただ贖罪に身を任せるのではなく、新たな人生を切り開こうとする意志の強さだけは理解できた。

 とはいえ、詩織が罪を認め、刑に服したからといって、鈴木茂一家の悲劇の物語は、完全に幕を閉じた訳ではない。

 茂と詩織が結婚した翌年、鈴木家は母屋を全焼。その焼け跡から、絞殺された茂の父、利夫と鈍器のようなもので撲殺された母、愛子の遺体が発見された。

 この事件はいまだ未解決のままだ。