2006年、“中国人妻の夫殺人未遂事件”が世間を騒がせた。お見合いツアーを経て結婚した中国人妻の鈴木詩織が、親子ほども年の離れた夫、鈴木茂に、インスリン製剤を大量投与するなどして、植物状態に陥ったのだ。夫の目を盗んで性風俗で働いていたことや、1000万円で整形した等との噂も影響して、センセーショナルな報道が相次いだ。そんな中、事件記者として取材を進めていた、田村建雄氏は、獄中の詩織から300ページに及ぶ手記を託される。取材の様子を『中国人「毒婦」の告白』から抜粋して紹介する。(全2回中の1回目。後編を読む)
◆◆◆
手記では2つのコンロのうち、ひとつはミョウガ茶、もうひとつのコンロでは味噌汁を作っていた。そして晩御飯のおかずに詩織の得意の炒め物をやろうとして準備をしていたと記されていた。その炒め物のコンロのスペースを空けるため、ミョウガ茶を動かそうとして、梅を取りにきた茂に気づかずぶつかり誤って火傷を負わせたというのが詩織の主張だ。しかし、弟は警察の調べと公判廷で兄から聞いた話として「食事の準備はしてなくて当時はミョウガ茶だけを作っていてコンロは1つは空いていたと聞いていた」という証言をしていたのだ。
またやられるかもしれない
再び一審での弟の公判廷での証言を続ける。
検事 (当時火傷にはさまざまな疑問、疑惑があり)公にしたほうがいい、警察に捜査してもらったほうがいいと思ってましたか?
弟 思ってました。
(中略)
検事 お兄さんは、また何か危害を加えられるんじゃないかと身の危険を感じるようなことを言ってたことがあるんですか?
弟 ハイ、またやられるかもしれない、あとは頼むよということは聞いています。
検事 あとを頼むとは どういうことですか?
弟 家のこととか子どものこと。
検事 やられるかもしれないというのはどの程度危惧を持っていた?
弟 今回火傷で死ぬ寸前までいっているのでもっとひどいあれじゃ……。
弟は「兄は当時いつかは命を狙われるようなことが起こりうるかもと薄々感じていた」と証言している。これらの弟の証言と供述調書に対し、判決では「弟の供述は十分信憑性がある」との判断が下されたのだ。