2006年、“中国人妻の夫殺人未遂事件”が世間を騒がせた。お見合いツアーを経て結婚した中国人妻の鈴木詩織が、親子ほども年の離れた夫、鈴木茂に、インスリン製剤を大量投与するなどして、植物状態に陥ったのだ。夫の目を盗んで性風俗で働いていたことや、1000万円で整形した等との噂も影響して、センセーショナルな報道が相次いだ。そんな中、事件記者として取材を進めていた、田村建雄氏は、獄中の詩織から300ページに及ぶ手記を託される。取材の様子を『中国人「毒婦」の告白』から抜粋して紹介する。(全2回中の2回目。前編を読む)

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インスリンの致死性

「したがって、(1)被告人詩織が自宅でインスリン投与(2)生命の危険が生じる程度に自宅で放置(3)その後インスリン投与の発覚を防ぐために病院に搬送、医師の治療を受けさせる(4)しかしその甲斐なく被害者は死亡する、というストーリーが久美子と詩織の間で練られていた可能性が高い」

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「インスリンに対し被告人にも被害者が死亡する可能性のあるクスリと(久美子は)説明していた。だから殺意があった」

 そしてその背景には久美子に対して支払われるカネがあったとする。

「保険金から500万円が支払われる約束。それにもとづき実際、現金60万円が支払われた」

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 こうした検察・一審判決に対し弁護側は控訴趣意書などで、こう猛反論した。

 そのひとつインスリンの致死性の認識度についてはこうだ。

「判決は、大川久美子がインスリンの過剰投与が生命に対する危険性があると認識していたとするが、それらの認定は恣意的解釈。

 社会一般のインスリン製剤の認識は、ほかの劇薬、例えば青酸カリなどと異なり、劇薬と思っている患者はほとんど存在しない。

 背景として、普通一般的に医師から患者、家族に、そうした切羽詰った説明はされていない。

 原判決はH医師の供述にもとづき危険性が説明されている旨を認定した。しかしH医師の供述を仔細に検討すれば『脳障害の恐れ』『死にいたる危険性』などの説明は、まったくされていない。