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「注射せざるを得ない気持ちをわかってくれますか」 夫を殺した風俗嬢・詩織の呆れた“言い訳”

『中国人「毒婦」の告白』#16

2021/01/02

 2006年、“中国人妻の夫殺人未遂事件”が世間を騒がせた。お見合いツアーを経て結婚した中国人妻の鈴木詩織が、親子ほども年の離れた夫、鈴木茂に、インスリン製剤を大量投与するなどして、植物状態に陥ったのだ。夫の目を盗んで性風俗で働いていたことや、1000万円で整形した等との噂も影響して、センセーショナルな報道が相次いだ。そんな中、事件記者として取材を進めていた、田村建雄氏は、獄中の詩織から300ページに及ぶ手記を託される。取材の様子を『中国人「毒婦」の告白』から抜粋して紹介する。(全2回の2回目。#1を読む)

◆◆◆

私を脅迫するお前が悪いのです

 詩織は、その時、自己正当化のための生々しい叫びをこう記している。

〈なぜ、子どもを私にくれないのですか? なぜ私を追い詰めるのですか? なぜ、お前を憎ませますか? 茂さん知っていますか?  平和に別れることは素晴らしいことではないのですか。

 私の神経を刺激し、心を悩ませることを言って私を脅迫するお前が悪いのです。〉

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 茂が睡眠薬を飲んで眠りにつくと、詩織は1階に降り、ぼんやりしていた。

 チェーンスモーカーのように次々とタバコを吸い、冷蔵庫から冷えたビールをとりだし、ゆっくりと飲んだ。頭の中は真っ白な状態が続いている。

 それから、夢遊病者のようにふらふらと風呂場に行き、素早く服を脱いで、風呂に入った。体中に石鹼の泡を立て、白磁のような白い肌の全身をすみからすみまで丁寧に洗い続けた。洗う手に意識はなく、何かの儀式のようにのろのろとしている。

 多分、入浴には1時間以上かかったろう。髪を乾かして、リビングに戻ると、再びぼんやりとビールを飲む。酒の味がまったくしない。テレビが点けたままになっていたが、何の番組か、まったく意識に入ってこなかった。ただ、かしましいタレントの笑い声だけが右の耳から左の耳に抜けていく。

 時間もわからないまま、再び茂が寝ている2階にそっとあがっていった。茂は鼾をかいて熟睡している。しばらく部屋をうろうろしていたが、また1階に降りる。

 椅子に腰掛けタバコをくゆらせビールを飲んだ。

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〈放心状態では何も始まりません。やらなければならないことをやって離婚するのだと、自分に言いきかせました。子どもたちは私を愛し、私は子どもたちを愛しています。彼らは私の宝物です。お前は私を脅しています。これまで何度も繰り返してきた言葉が、頭の中で渦巻いていました。

 私は再び2階にあがり久美子さんからもらったものが入っているカバンを取り出しました。そのとき、数日前の記憶がよみがえりました。〉