2月9日、不適切な柔道指導にともなう事故をめぐって、福岡市で柔道教室に通っていた男性・勇樹さん(20)とその父親の正雄さん(50)が、全日本柔道連盟(東京都文京区、山下泰裕会長)を訴えていた裁判(東京地裁)で和解が成立した。正雄さんと代理人が司法記者クラブで会見に臨んだ。正雄さんは和解内容に十分な満足感は得ておらず、「まだスタートラインに立っていない」としながらも、全柔連の今後の対応に期待する姿勢を示した。

 原告側によると、勇樹さんは指導者の男性から暴力的な指導を受けたことについて、全柔連のコンプライアンスホットラインに通報。しかし、全柔連は「問題ない」と判断していた。コンプライアンスホットラインは、2013年に発覚した女子柔道の国際試合強化選手への暴力やハラスメント事件を受けてできたもの。代理人は「今回の裁判は、なんのための内部通報制度かを問うもの」と位置付けている。

司法記者クラブで記者会見を行った勇樹さんの父親・正雄さん(写真左) ©渋井哲也

「まいった」の意思表示も無視して絞め技をかけた

 勇樹さんは中学2年生だった2014年10月20日、柔道場で乱取り稽古をしていた。そのとき、指導者による首を絞める「片羽絞め」を受け、一時的に意識を失った。絞め技は頚動脈を圧迫して、脳への血流を遮断、意識を失わせるものだった。中学生から使用可能な技だが、意識がなくなる前に、技をかけられた側がタップすれば一本負けとなる。しかし、一度受けるだけでも脳にダメージが残るリスクもある危険な技でもある。

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 このとき、指導者の男性は、稽古前の勇樹さんに「先週の金曜日に小学生を相手にお前は絞め技を使っただろう」と詰問した。それに対して、勇樹さんは「まったくやっていない」などと否定した。乱取り稽古が始まると、普段は稽古をしない指導者の男性が勇樹さんの相手となり、そのときに絞め落とされ、5秒ほど気を失った。「まいった」の意思表示でもあるタップを無視した。蘇生措置をした後、勇樹さんが意識を取り戻すと、指導者の男性は「これが絞め技ということだ」と言い放ち、再び絞め技をかけた。勇樹さんがタップすると、指導者の男性は「まだ決まっていない。タップが早すぎる」と言った。その後、勇樹さんは3、4秒、意識不明となった。

 正雄さんは「一連の実力行使が制裁目的であることは明らか。全柔連倫理規定に抵触する行為である」と主張していた。