主な和解内容は4つ
今回の会見にて、正雄さんは「全柔連という巨大な敵に対して闘ってきた。これまで突き詰められるところまで突き詰めてきた。この和解内容の評価は、関係規則を改正する1年後に決まる。本当のスタートラインはその後。私たちは、まだスタートラインに立っていない」と話した。
主な和解内容は、以下の通り。
(1)全柔連のコンプライアンスホットラインについて、加盟団体に調査、処分を委ねる場合の具体的な基準を定め、関係規則を1年以内に改正する
(2)意識を喪失させることを目的として絞め技をかけるなどの指導に名を借りた暴力を含め、暴力事件が起きないように、柔道指導者をはじめとするすべての柔道関係者に指針を示すなどして注意喚起し、暴力の根絶に努める
(3)通報者と対象者の言い分が異なる場合、双方の言い分を十分に聴取し、通報者に対して適切な事情聴取、情報提供を行う
(4)改正した関係規則はウェブサイトへ掲載するなど適切な方法で公開する
なお、原告が求めていた損害賠償を放棄した。
「柔道界には隠蔽体質があり、表になかなか出てこない。まずは証拠を集めること」
一方、全柔連への期待も寄せる。20年9月、兵庫県宝塚市の中学校で、冷凍庫に保管していたアイスクリームを無断で食べたとして、柔道部の顧問が生徒2人に校内の武道場で技をかけ、けがを負わせた。生徒が意識を失った後も顔を平手打ちし、目覚めさせ、さらに暴行を続けた。この事件で顧問は傷害罪で起訴された。県教委も懲戒免職処分とした。全柔連は、この元顧問を除名処分とした。正雄さんは「全柔連も変わり始めているのではないか。暴力の根絶には期待したい」と述べた。
暴力的な指導の被害者であった勇樹さん自身はどう思っているのか。正雄さんがLINEで和解を伝えると、「長い間、お疲れ様。十分満足している」との返信があった。正雄さんはこう話す。
「(LINEの返事は)短い文でした。この通りの気持ちかはわからない。基本的には、この裁判は私が仕切った。一度、和解か判決かを(息子に)聞いたことがある。その時は、判決まで闘って欲しいとの気持ちだった。息子は陳述書を書いたが、過去の嫌な記憶を思い出してしまったので、闘うのは限界だったと思う。ただ、息子の中にも過去のこと、終わったことという考えもあったかもしれない。ここで引き際という判断もあったのではないか」
事件から7年間の闘いが終わったことになる。父親として共に闘ってきた。
「息子には負けたまま、負け犬のまま終わってほしくなかった。そのことに意味があると思っている。彼がどう捉えたのかわからないが、メッセージとして伝わっていればいい。その意味では満足している」
また、同じように指導者による暴力的な指導やハラスメントを受けている当事者に対しては、「少なくとも柔道に関しては一つの道筋を作った。次に必要なものは証拠。柔道界には隠蔽体質があり、表になかなか出てこない。苦しんでいる人がいるならば、まずは証拠を集めること。そうすれば、次の闘いができる。苦しいかもしれないけれど、自らを奮い立たせてほしい」と助言した。