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「日本だって朝鮮人を強制連行したんだから」嫌がらせを受けても拉致問題に声をあげる理由

野伏翔(映画監督・演出家)

2021/02/18
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 北朝鮮による拉致被害者5人が電撃的に帰国したのが2002年。以降、他の被害者の帰国は未だかなわず、進展が見られないまま現在に至る。『めぐみへの誓い -The Pledge to Megumi-』(2月19日公開)は、1977年、13歳で北朝鮮に連れ去られた横田めぐみさんの事件を中心に、入念な取材に基づいて拉致の実態を描く。もともとは野伏翔監督が主宰する劇団夜想会が2010年に初演した舞台で、10年の時を経て映画化された。

野伏翔監督

きっかけは「憤り」

――北朝鮮による拉致事件を舞台化しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

野伏 2002年の小泉(純一郎)訪朝で、5人が帰ってきて大きなニュースになりましたよね。その時まで特別に興味があったわけではなかったんですが、そのニュースに大変驚きました。しかもその後、あまりにも進展がなく、さらに被害者の偽の骨まで送ってきて死んだことにしている北朝鮮に対して怒りが湧いてきました。それから元北朝鮮工作員の安明進さんの講演を聞きに行ったり、著作本を読んだりするうち、自分に何かできることはないかと思い始め、脚本を書いて家族会にお送りして読んでいただきました。

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――そこで家族会の方に上演の許可を得たということなんですね。

野伏 家族会の総会に行っていろいろ説明しました。最初は収容所の様子が描かれていることから賛否両論があったらしいのですが、被害者がその恐怖と背中あわせでギリギリ生きている姿を描かないと過去の誘拐事件で終わってしまって現在の救出活動に繋がらないのではないかと話したら、有本恵子さんのお父さんが大声を張り上げて「これをやらなアカン!」と大賛成してくれて。それから特定失踪者問題調査会代表の荒木和博さんに事実関係をチェックしていただいて、初演が実現しました。最初のきっかけは、怒って立ち上がってもらうものを作りたいという憤りです。

©映画「めぐみへの誓い」製作委員会

演劇だと限界があった

――舞台から映画にしようと思ったのは?

野伏 やはり映画としてもっと広めていかなきゃいけないと思ったんです。演劇だとお金もかかるしキャパシティも狭いので、どうしても限界があるんですよね。2014年からは内閣府の拉致問題対策本部の主催で啓発公演という形で全国を廻っていますが、2020年度は2回だけ。2回やっても2000人も観られないですからね。それでは啓発とは言えない。映画では現在、劇場も19館で公開が決まりましたし、秋田県では各学校で上映してくれると申し出てくれました。