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「日本だって朝鮮人を強制連行したんだから」嫌がらせを受けても拉致問題に声をあげる理由

野伏翔(映画監督・演出家)

2021/02/18
note

800人以上いる特定失踪者

――拉致被害者の北朝鮮での生活など具体的に描かれていて驚きました。

野伏 僕も招待所と収容所の違いはこの取材の過程で調べてわかったことです。脱北者の人に話を聞くと、招待所というのは北朝鮮の一般の人から見られない山の上や、街の場合は森などに囲まれて隠されていて、庶民からするととても立派できれいな場所なんだそうです。そういう場所で洗脳されて訓練を受け、そのまま政府の仕事に就くのだと思われます。そこで逆らった人は酷い目に遭います。

――取材を進める上で報道されていないことを知ったということは?

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野伏 今、北朝鮮による拉致の疑いのある特定失踪者は警察の発表で800人以上いるんです。でもそれは家族が申し出たことで発覚しているわけですから、家族がいない失踪者を含めるときっと800人なんてものじゃない。背乗りと言って戸籍ごと入れ替わる狙いがあるので、家族がいない人の方が工作員に狙われますから。国連の人権理事会ではもっといるだろうと言われています。そういうことを知っていくにつれて、未だにひとりも逮捕者が出ていないのは国内問題として怖いと思いました。ひとりを拉致するのに最低でも3人は必要だと思いますが、そうすると単純計算で延べ5000人くらいの人が事件に関わっているはずで、そういう人が今も普通に日本にいると思うとちょっと空恐ろしくなって。そこには映画でも触れていきたいと思いました。

©映画「めぐみへの誓い」製作委員会

「日本にはこんなに簡単に潜入できるんですね」

――国内の北朝鮮協力者の存在や拉致の描写などリアルでした。

野伏 朝鮮総連で拉致の手引きをしていて、あまりにも辛くなって辞めた元工作員がいろいろ証言しているので参考にしています。劇中、病院で注射を打たれて拉致された人は(特定失踪者の)藤田進さんがモデルになっていますが、藤田さんを病院に連れて行き、拉致した実行犯の元工作員が中国で取材を受けています。「日本にはこんなに簡単に潜入できるんですね」という工作員のセリフがありますが、日本船には一番腕の悪い工作員が行かされるそうです。絶対安全だから。韓国に潜入するのはもっとエリートということです。これは北朝鮮の犯罪であることに間違いはないんですが、日本国内の不備がそれを助長してしまったと思います。子どもや孫のためにもそういう点を少しでも改善していかなければいけないのではと思っています。