コロナ禍において異例のヒット作となっている映画『花束みたいな恋をした』。1月29日からの公開後、動員、興行収入ともに2週連続1位を記録した。たとえ恋愛映画が苦手でも、2015年〜2020年を彩った近年のカルチャーに精通していなくても、なぜかこの映画にハマり、誰かと感想を言い合いたくなってしまう人が続出している理由とは。ライターの平田裕介さんが綴る。

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 ふたりが放つセリフ、浮かべる表情、眺める風景。

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 2時間にわたって描かれる、彼らの5年間のすべてにウキウキしてヒリヒリした。

 15週連続で興行収入ランキング首位に君臨していた『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』を抑えて第1位に躍り出た『花束みたいな恋をした』。公開10日間で、動員56万6000人超、興収7億7000万円超を記録し、公開2週目も第1位をキープするヒットとなっている。

菅田将暉演じる山音麦(やまね・むぎ)と、有村架純演じる八谷絹(はちや・きぬ) ©2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

 菅田将暉、有村架純という布陣からランクインするとは予想していたが、まさか『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』『銀魂 THE FINAL』『映画 えんとつ町のプペル』といった強豪を尻目に懸けて2週連続1位を記録するとまでは思わなかった。

 なぜ、ここまでのヒットになったのか。理由は4つあると思う。

実力派にして確実に“当てる俳優”菅田将暉の主演作

 第1の理由は、ヒットメーカーとなった菅田将暉の主演作であるから。

『アルキメデスの大戦』(2019年7月26日公開)は興収19.3億円、『糸』(2020年8月21日公開)は興収22.7億円、『浅田家!』(2020年10月2日公開)は興収12.1億円と、ここ2年で主演・出演した作品は軒並みヒットしているのだ。強烈な役柄を演じ切ったテレビドラマ『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(19)と『MIU404』(20)、米津玄師が作詞・作曲・プロデュースを手掛けて『第70回NHK紅白歌合戦』出場に導いた配信シングル曲「まちがいさがし」(19)についつい目を向け、耳を傾けがちだったが、映画の世界では実力派にして確実に“当てる俳優”になっていたのだ。

やりがい搾取、消耗品扱い…「いらすとや使うんで大丈夫です」

©2021『花束みたいな恋をした』製作委員会

 第2の理由は、現在の若者たちが抱える生きづらさと彼らが生きなくてはいけない世の中を描き、どう生きるべきかを考えさせるから。

 もちろん、この作品は麦(菅田将暉)と絹(有村架純)という若い男女の恋の軌跡を追ったラブロマンスである。その一方で2015年~2020年、平成末期~令和という時代を切り取ったグラフィティにもなっているが、温かなノスタルジーだけに浸らせることはしない。

 夢であったイラストレーターの道を歩み始める麦だが、発注元にイラスト1枚1000円のギャラを3枚1000円に下げられる“やりがい搾取”に遭い、抗議するや「そしたら、いらすとや使うんで大丈夫です お疲れ様でした」と光の速さで切られる。生活を安定させようと就職活動に励む絹だが、圧迫面接によって心が折れてしまう。就業時間は午後5時までという言葉を信じ、ならば仕事の後にイラストにも打ち込めるはずだと物流サービス企業に勤める麦だが、そこはそれなりに“黒み”がかかっていてイラストレーターの時と同じように消耗品として扱われる。