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2021/02/14

訪欧中の渋沢役を演じたのは…角野卓造

『雲を翔びこせ』では、パリでの渋沢の動向は描かれず、すぐに帰国した場面に移る。これに対し、訪欧中の彼が描かれたのが1980年の大河ドラマ『獅子の時代』だ。演じたのは角野卓造(当時31歳)である。

『獅子の時代』の渋沢役・角野卓造 ©文藝春秋

 角野演じる渋沢は、同じく幕府使節団の一員だった本作の主人公の1人・会津藩士の平沼銑次(菅原文太)と交流を持つ。パリに来て1年が経った頃、渋沢が銑次の調達してきた魚を刺身で振る舞われ、日本を懐かしむ姿が印象に残る。

『獅子の時代』は原作なしのオリジナル脚本(作・山田太一)、明治時代を本格的に舞台とするなど大河ドラマでは初めてづくしであった。銑次と薩摩藩士の苅谷嘉顕(加藤剛)と、主人公が架空の人物というのも異色だ。

気になる『青天を衝け』での訪欧シーン

 第1回のオープニングからして型破りで、現代のパリのリヨン駅に、髷姿の幕府使節団が現れるという斬新な演出だった。そのあとにも現地でロケした場面がふんだんに出てくる。ひるがえって、コロナウイルスの感染拡大がなおも世界中で続く現状では、海外ロケは難しい。渋沢のその後の活動に大きな影響をおよぼした渡欧のシーンは、果たして『青天を衝け』ではどのような形で撮影されるのだろうか。

 ここまであげた作品に登場したのは若い時期の渋沢だったが、1988年1月公開の映画『帝都物語』(実相寺昭雄監督)では、老年期の渋沢を勝新太郎(当時56歳)が演じている。同作の渋沢は、明治末期よりひそかに東京改造計画を進めていたという設定で、一種の黒幕的存在として登場する。ただ、実際の渋沢とは違い、ひげをたくわえた姿は、勝新以外の何者でもない存在感を示していた。

勝新太郎 ©文藝春秋

 劇中では、物語で重要な役割を担う物理学者の寺田寅彦(寺泉憲)が、工学者で理化学研究所(理研)所長の大河内正敏(寺田農)と親しくしているさまが描かれていた。事実、寺田は大河内と親交があり、1923年の関東大震災(『帝都物語』でもモチーフとして出てくるが)の翌年には、理研の主任研究員に就任している。渋沢はこの理研の設立にも尽力した。