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すべては1977年に始まった…“抱き合わせ企画”だった「スター・ウォーズ」が映画界に起こした革命

2021/02/26
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ルーカスの決断

 第一作製作時のルーカスの英断として最もよく知られているのは、

 ・続編の権利の確保
 ・マーチャンダイジング(グッズなどの商品化)の権利確保

 の2つだろう。

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 映画の大ヒットによって、ルーカスは続編から得られるであろう利益の多くが約束されたし、関連商品が売れに売れたことで、これまたルーカスの元には莫大な収入が転がり込んだ。これを人々は「ルーカスの先見の明」とか「ルーカスの卓越したビジネスセンス」と評して褒め称えたものだった。しかし現在に至るまで、このルーカスの決断には誤解されている点が多い。

 ルーカスは「スター・ウォーズ」の脚本執筆に3年を費やしており、その内容は1本の映画にするには多すぎる量となった。そこで彼は物語を3つに分割して、最も単純明快でエキサイティングなエピソードを最初に映画にした。つまり、撮影に入る前の段階で、彼はすでに「三部作」という構想を持っていたわけだ。

第50回アカデミー賞授賞式(1978年) ©AFLO

 生みの親であるルーカスとしては、自分が作り出したこの物語をどうしても映像化したいという願望を当然ながら持った。もし映画がヒットすれば、続編の製作は容易に許可されるだろう。だが、もしヒットしなかったら、また、ヒットしたとしてもぎりぎりの収益だったら、続編の製作にはなかなかゴーサインは出ない。場合によっては、監督・脚本共に、ルーカスには何の関係もない人に依頼されてしまうことにもなる。

 ルーカスとしては、それは絶対に避けたい事態だった。だからこそ、前作「アメリカン・グラフィティ」(1973年)の大ヒットによって、当初の取り決めよりも大幅にギャラのアップが保証されていたにもかかわらず、彼はその額を据え置きにして、「続編の権利のほうが欲しい」と言ったのである。

 マーチャンダイジングの権利についても、続編が理由だった。もし映画がヒットしなくても、ルーカスは何とか自力で続編を作るつもりでいた。その場合、同作がヒットしなかったら収益も少ないだろうし、それはSF映画を作るにはてんで足りないのが分かりきっていた。

 そこでルーカスは、「続編を作るための資金源」とすべく、副収入となりうるマーチャンダイジングの権利にこだわった。自分のビジョンを実現するために、周到な計算の上で権利の確保をしたという点では、ルーカスにビジネスマンとしての才能を見出すことができるだろう。しかし、そのモチベーションは、あくまでもフィルムメイカーとしての職人気質にあったことは見逃してはならない。

スター・ウォーズ論 (NHK出版新書)

河原 一久

NHK出版

2015年11月7日 発売

すべては1977年に始まった…“抱き合わせ企画”だった「スター・ウォーズ」が映画界に起こした革命

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