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初回はネット配信で日テレ史上最大の200万再生

『ウチカレ』の物語は、第6話で大きな転換を迎える。血液検査によって碧と空の間に血縁がないかもしれないことが暗示され、物語は第二部に入る。

 その物語の結末がどこに向かうのかはまだわからない。だが仮に碧と空が血の繋がった母と娘でなかったとしても、この物語が「女の子と女の子の物語」であることは変わらないのではないかと思う。これはたぶん、傷つきながら欲望の時代を生きた20世紀の女の子と、より困難な不安と恐怖の時代を生きる21世紀の女の子の、親子ほど年齢の離れた友情の物語なのだ。

©AFLO

『ウチカレ』の視聴率は初回に10%越えを記録したあと、8%台で推移している。そう悪くはない数字だ。だがこのドラマには視聴率とは別のところで、ある不思議な現象が起きている。『TVer』という、見逃したテレビ番組をスマホやタブレットで見ることができる新世代のネットサービスで、『ウチカレ』の初回放送は日テレ史上最多の再生回数、200万回を記録したのだ。

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 第2話以降も『ウチカレ』は、なみいる人気ドラマの中でランキングの高い位置に入り続けている。TVerを利用するのは、テレビ画面でテレビを見ない新しい世代、朝ドラ視聴者層のさらに下の世代である。

『半分、青い。』がツイッターで炎上しながら、同時に朝ドラに若い世代の観客を呼んだことは知られているが(筆者の職場でも『半青』から朝ドラを見始めた若い世代が何人かいる)、橋田壽賀子の脚本が台所で食器を洗う主婦の耳にまで物語を届けたように、北川悦吏子の物語は今、スマートフォンの小さな画面でドラマを見る新しい観客たちに届いている。

「失敗し、傷つくことを恐れるな」というメッセージ

 TVerでウチカレを見て感想をつぶやく若い世代は、たぶん脚本・北川悦吏子というクレジットの重みを感じることがない。

『ロングバケーション』や『ビューティフルライフ』といった、この作家が無意識の底から直感的に引き上げた物語たちが同時代の女性たちにどんな意味を持っていたかも、もう20年近く前の小田和正との対談で、高い視聴率を期待される中、自信をもった脚本であっても、数字が伸びないと出演者たちに後ろめたくなるという意味のことを話して涙をこぼしたことも、いくつもの病を抱え、鈴愛と同じように左耳が聞こえないことも彼らは知らない。

『ロングバケーション』の放送よりもあとに生まれた浜辺美波がおそらくそうであるように、彼らは北川悦吏子という名前に対する過剰な先入観を持たないからこそ、ただおかしな親子の物語をケラケラと笑って楽しんでいる。そしてそれは、とても正しいことなのだ。

(著者提供)

 橋田壽賀子や小山内美江子がかつてそうしたように、北川悦吏子もまた、彼ら新しい世代に対して自分の時代の物語を語り続けるのだろう。むかしむかし、人々がまだマスクと社会的距離に分断される前、手を繋ぎキスをして、そして顔を近づけて激しく喧嘩をすることができた、古き良き野蛮な時代のおとぎ話。

 北川悦吏子の物語の真ん中にはいつも、欲望という名の列車に飛び乗る女の子がいる。失望から次の欲望に向かって走り出す、時代を越えた希望の物語。

 それは日の出づる時代の女子から、日の没する時代の女子にあてた伝言であり、SNSへの憎しみに対する返事として、次の世代へ投函された全10話の野蛮なラブレターなのだと思う。