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福島県政に君臨してきた大物知事

 特捜部は、土地購入代金である合計9億7千万円が、時価をはるかに超えた不当な金額だと判断した。そして郡山三東スーツの元役員で大株主だった知事が弟の社長と共謀し、ダム工事を受注させた賄賂にあたると断定し、水谷逮捕から3カ月後の10月23日、佐藤栄佐久に縄を打つのである。実際、佐藤はゼネコン各社に選挙応援を頼んできた。弟もまた建設業界の談合に一枚噛んでいたことから、辞職した。そのすぐあとの摘発だった。

 ちなみに贈賄側の水谷は、すでに3年の公訴時効が成立していたため、汚職事件における直接の罪には問われていない。特捜部がよく使う収賄の時効5年との時間差を利用した常套手段の捜査でもあった。

 事件の詳細については、これまでさんざん報じられてきたので割愛するが、佐藤栄佐久は参議院議員から88年9月の知事選に出馬して以来、福島県政に君臨してきた大物知事だ。5期18年目に突入した知事の逮捕は、東京地検特捜部として決して小さな事件ではない。しかし、水谷建設の先にあるゼネコン業界の利権構造は、それよりもっと奥が深い。この事件捜査は入口に過ぎないはずだった。否応なく、捜査がどこまで発展するか、事件の成り行きに世間の関心が高まった。

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収賄額0円の有罪判決

 ところが、ここから特捜部の捜査は迷走する。とりわけ窮地に陥ったのが、逮捕後の公判だ。地検の事情聴取で収賄を認めた佐藤側が、土地売買の賄賂性について争うようになる。佐藤側の代理人として法廷に立ったのが、元名古屋高検検事長の宗像紀夫だった。

 東京地検特捜部長時代にゼネコン汚職捜査の陣頭指揮をとった宗像は、土地の購入価格そのものが通常の取引相場と変わらない、と反撃に出る。手強いヤメ検弁護士を相手に、検察側は公判で大苦戦を強いられていく。

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 問題は土地の価格だった。検察側は郡山三東スーツの土地の時価を8億円だと見て、実際の取引価格9億7千万円との差額1億7千万円を賄賂と認定した。一方、弁護側はテナントの賃料やその後の転売価格などから、9億7千万円が相場どおりだと反論する。そうして公判は全面対決の様相を呈した。形勢はやはり検察側に分が悪かった。

 08年8月8日、東京地裁は兄の佐藤栄佐久に懲役3年、弟の祐二に懲役2年6カ月の有罪判決を言い渡したが、いずれも執行猶予5年がつく。それでもなお不服とした知事側は控訴し、1年後の09年10月14日に改めて東京高裁の判決が出る。その結果は栄佐久が懲役2年、祐二が1年6カ月の有罪となる。ともに1年も減刑されたうえ、問題の賄賂性については事実上の金額をゼロとした。